1月に「序」を書いたまま放置していた交響的小品に関する記事。www.petit-orchestra.jp
やっと、続きを書いてみようと思うに至りました。
今回は使用している主題とそれを曲中でどうアレンジして使っているのか?という視点でお届けしてみようと思います。
イメージ図を用いて、初心者の方にもわかりやすく、また実際の譜例を用いて、ソナタ形式の楽曲を作ってみたい方へのヒントにもなるように書いてみます。またまた、ご奇特な御仁に興味を持っていただくきっかけとなるように…よければ、選曲をしていただきたいなと思っています。
古典的、ロマン派的な曲調で、最近の流行りとは一線を角す曲調です。現代に於いては、かえって真新しいかもしれません。譜例もついていて参考情報が多いので、是非動画と併せて読んでみてください。
音楽に於いて心は大切ですが、理論的なものや理系的アプローチもまた、とても大切だと思います。
音楽は文系のイメージがあるかも(この発言自体ステレオタイプの偏見かもですが)理系のセンスのある人の方が向いているように思います。
音は物理現象ですし、音符同士の関係や構成については数学的なものです。リズムも音程も数的センスは必須です。
絵画においても、(本能のままにできている方もいるとは思いますが)配置や配色など、数学的な計算をなされているものでしょう。
「私難しいことわからない!」という演奏者の方も全拒否をするのでなく、とりあえず「ふーん?」でいいので、理論にも触れてみるのがいいと思いますよ。
吹奏楽のための交響的小品 主題操作 楽曲の仕組み
動画
仕組みをお話しする前に全曲の様子をお聴きいただけたら幸いです。
曲中で使っている代表的な主題
A. 第一主題のテーマ
トランペットによって高らかに提示されます。
B. 序奏の動機(第二主題のテーマ)
この曲のもうひとつの大切なテーマです。実は第一主題のテーマより先に表れます。
既に動機の操作が行われているのがお分かりでしょうか?どういう操作なのか、「主題操作とは?」のセクションをご覧いただければと思います。
C. 第一主題中のブリッジの動機
D. 序奏の動機
B.に引き続き、ここにも主題操作の一部が写されていますので、いったいどういうことかな?と推測してお読み進めいただけたら幸いです。
主題操作とは?
楽譜だけで説明することも可能なのですが、たまには趣向を変えて、イメージ図を用いてみようと思います。
へったくそな画…なんですが、多分イメージは伝わるかと。
次の画の左上が基本形…だとします。
左右逆にしたり、上下逆にしたり、左右上下逆にしたり…
縮めたり、拡大したり。
一部、切り取ったり…
主題の操作とはこんなことをするイメージです。
ちなみに、B. 序奏の主題(第二主題)の説明はここまでで、できます。
序奏の主題を基本形とすると、「第二主題は反行させ、前半のリズムを縮めたもの」と言えます。
また、D.の後半については、「A.第一主題の一部を拡大、一部の音程を変更させたもの」ととらえることができます。
ソナタ形式の楽曲(に限らず、程度の大小や頻度の大小、楽曲に対する影響度はそれぞれですが大なり小なりどの楽曲)においてはこれで作られていると言っても過言ではないでしょう。
現代人にとっては、あまりしつこい繰り返しには飽きてしまうかもしれませんが、主題をその曲において、1回しか使わないというのは、印象に残りにくいですし、その曲が何を表現したかったのかがわかなくなってしまいます。
そのため、主題は2回繰り返されたり、歌ものならば2番があったり、大サビがあったり、ソナタでないものでも、3部形式で再現があったり、2部形式でも、aaba(最後にaがもう一度来る)の構造が多かったり…
と言った感じです。
ソナタ形式はその主題への愛を、いじくり倒すことで表現する…ような曲とでもいえましょう。
凄く雑な画なんですが…
こういうのを繰り返して楽曲は完成していきます…
この画は非常にあれですが…優れた操作がなされれば、それが芸術作品になるわけです。歴史上の大交響曲はその一例と言えるでしょう。
本曲における主題操作 その1 提示部まで
主題操作の本領は実は展開部で発揮されるものです。展開部は作曲家の腕の見せ所ですので…
とはいいつつも、提示部までで、すでに結構なボリュームになってしまいましたので、ここまでで区切ってみたいと思います。
展開部以降は次の機会に。
A. 第一主題のテーマ
実は第一主題が鳴らされる前から登場しています。
第一主題の動機と関連があるのがお分かりでしょうか?音程が異なっているのと、第一主題で16分音符4つで表現されるところが、付点八分音符+16分音符の形になっているので、若干わかりにくくはあります。
主題操作の一手法にリズムのみで表現するというものがあります。ベートーベンの運命の動機で見られる手法です。
やっと本家第一主題が赤枠で示されます。その前にも青枠の部分に提示されているように、リズムのみですが、動機がトランペットに示されます。また、そのすぐ後、ベースラインにも主題が表れます。
第一主題の納め部分(まだ、第一主題の一部)です。この曲においては、第一主題の納め部分で反行系(トランペットの譜面をご覧下さい)を使っています。
また、ダメ押しのように内声(ホルンやユーフォニアムなど)に基本形の音程違いが表れます。
第一主題が終わった時点でも、もうこれだけありますが…まだまだ。
ブリッジとは、その名の示す通り主要な部分同士をつなぐ橋渡しの役割を果たす部分を指します。
この譜例は第一主題と第二主題のブリッジです。ここでも第一主題があちらこちらででてきます。ティンパニの前半二つは第一主題の動機の一部を用いたもの、ベースに表れるのは16分音符のリズムを三連符に変えたものです。
ブリッジには全く異なる旋律が置かれることもありますが、今回は第一主題の残り香を示すものと、第二主題の登場を匂わせるものの両方を配置しました。実はトロンボーンに注目してもらえると第二主題が登場しているのがわかるのですが…
さて、第二主題に入ってしばらくはひそめておりますが、1フレーズ目の締めで目立たないように登場します。
この楽譜の場面と次の楽譜の場面はつながっておりますので、この動画をそのまま再生していただければ続けて聴けます。
目立たないと申し上げましたのは、他の音と組み合わされてわかりにくくなっている、リズムが同等ではない、3・4番目の音程が違うなどの理由です。旋律なのでこの音形が聞こえにくいわけではありませんが、第一主題の動機としてでなく、第二主題の一部として聴こえるでしょう。
確保(主題を印象づけるために、そのままあるいは多少アレンジをして、主題を繰り返すこと)において、第一主題が顔を出します。
提示部の小結尾(小結尾は主要な部分に配置されることのある納め部分です)においても、非常に気づきにくいのですが、第一主題が出てきます。
この動画においては、八分音符1つ分抜けちゃってます。
B. 序奏の動機(第二主題のテーマ)
序奏の頭でいきなり提示されたものは、代表的な主題の部分でご紹介済みですが、序奏において実は隠れた使い方もされています。
赤枠の音形がそれです。よく見るとリズムを倍速くしたものになっています。この部分で目立つのはオーボエのソロであるD.の動機なのですが、その内声に配置されており、パット聞いた感じ気づきにくいですが、ホルンで重ねられているのでホルンの音に耳を傾けていただければ気づきやすいと思います。
続いては2つ同時にご紹介します。
この前の小節に最初の1音がありますが、ファゴット(Bassoon)やトロンボーンに序奏の動機がそのまま提示されます。これがひとつ目です。ここまでで序奏は終わりです。
拍子が変わってからは第一主題への導入となるブリッジ部分になります。ピッコロ、フルートの譜面を見ていただければわかると思うのですが、序奏の動機が使われています。これが二つ目です。第一主題と第二主題のブリッジでもそうでしたが、このブリッジにおいても序奏の動機と先述のティンパニにあらわれる第一主題の動機がともに鳴らされ、序奏と第一主題のつなぎの役割を果たしています。
この部分は第一主題の一部で、真ん中らへんの部分です。C.の動機がオーボエに見られますが、それとともに、ファゴットやユーフォニアムに序奏の動機が使われています。
ちなみに、後半の部分のリズムは、本記事では特に触れていませんが、序奏に出てくる音形と関係の深いものであったりもします。
続いては、A.の部分で見ていただいた画像とよく似た画像が示されます。トロンボーンにご注目と書いたものです。
トロンボーン1,2,3の音をよく見てください。内声なのでわかりにくいですが耳を傾けるとわかります。音が流れる順番に添って鍵盤を弾いてみると…八分音符で「(休符)FCBbEbD」と鳴りますね。これ、そっくりそのまま第二主題の動機と一致します。
続いて、本家第二主題です。
クラリネットで提示されます。
提示部最後、小結尾に表れます。
ついでに、ダメ押しの第二主題のテーマが木管に表れるのもお聴きください。
これは若干こじつけともいえるかもしれませんが、第二主題に近いものを入れたいなと思ったところ、このような形になりました。2・3番目の音と4・5番目の音を入れ替えると序奏の動機に近くなります。
C. 第一主題のブリッジの動機
若干こじつけ感もありますが…第一主題の前にリズムのみ提示されます。(でも、多分あまりわからない)
低音に注目です。
続いて、本家C.の動機を見ていただきたいと思います。
こちらは、第一主題確保の譜面で、最初はオーボエとアルトサックスのみですが、この部分においてはフルートやクラリネットによって音域拡張とアレンジの補強がなされています。
これも、少しわかりにくい用法ですが、C.の動機のリズムと音程を少し変化させたものととらえていただければと思います。
C.の主題は副次的なもので、A.B.に比べると、ここまでの登場頻度は低いですが、展開部においては少し主張をします。
D. 序奏の動機
代表的な主題で提示したものです。
しばらく、この動機が分かる形で繰り返されます。次の画像の青枠がそうです。
最後にB.の序奏の動機が再度提示されるときに、断片が表れます。
赤枠の部分にご注目ください。これは、D.序奏の動機の最初の2音だけ抜き出したものです。
続いて登場するのは第二主題へのブリッジの部分です。
音程関係がそのままのものと、跳躍音程になっている物、元の音程に戻らないものなど混在しておりますが、動機の原型が保たれており、判別できるかと思います。
次は第二主題に表れる、装飾的な音形の断片です。
4音の内、最初の3音を使っています。
次が提示部最後に表れるD.の動機です。
小結尾を構成するメインの部分です。
こちらの動機も展開部においてはC.同様もっと様々な登場の仕方をします。
次回展開部の主題操作はもっと本格的
はい、ここまででも十分主題操作をしているようにも見えるかと思います(が、それは皆様の判断にお任せします…)。ここまでの主題操作でもソナタ形式の楽曲は十分作れるくらいではあるのですが、これはまだ序の口で展開部が本編です。
次の記事はこちらです。
作曲は小さなチャレンジの積み重ね
ちなみに、私は1度だけアドバイス程度に作曲家の先生のお話をお伺いしたことはあるのですが、ほぼ独学でやっております。
作曲をはじめてた経緯はこちら。
独学だとこの程度か…と思われるか、独学でもここまでできるのか!?と思われるか、どちらなのかはわかりませんが、年月と共に、このくらいはできるようになりました。
最初は転調もできませんでしたし、「転調ができるようになり、今度は展開だ!」と思い始めたころに作れたのは、展開とは名ばかりの半音転調を繰り返したもので、そのときは「できた!」と喜んでいた時期もありました。現状もまだ道半ばであると思います。
でも、こうやって眺めてみると進歩はしているのかな?と思います。
どうぞ、作曲に興味のある方は、チャレンジしてみてください。ほんのわずかな一歩が積み重なると、案外大きな山ができているかもしれませんよ。
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