チャイコフスキーは交響曲*1では一切使いませんでしたが、実はバスクラリネット使いの名手であったりします。
後期作品では、バスクラリネットを多く活用した作品がたくさんありまして、今回はそのなかでも大活躍する「くるみ割り人形」をメインにご紹介してみようと思います。
バスクラ好きのみなさんにはここでご紹介した動画を全部聞いていただきたいです。(できれば、くるみ割り人形の全曲を聞いていただきたい…)
ベースラインをなぞるだけが能ではありませんよ。バスクラリネット。
- くるみ割り人形で聴くバスクラリネットの魅力
- バスクラの目立つ別曲、交響的バラード「地方長官」
- バスクラのポテンシャル
- 吹奏楽でのバスクラリネット
- バスクラリネットは吹奏楽でも活躍できるはず!
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くるみ割り人形で聴くバスクラリネットの魅力
組曲にはバスクラリネットがTacet(その曲まるまる休み)の曲が多い(イングリッシュホルンもですが、花のワルツがお休みなのは、結構つらい…)のですが、全曲では大活躍します。
バスクラリネットの目立つソロやソリがいくつもあります。では、ここからはその「一部」をお見せ、お聞かせしようと思います。
これでも、まだ全体像には届きません。残りはみなさんで是非発見してみていただきたいです!
旋律や対旋律のソロ
クリスマスツリー
本編一曲目から大活躍です。単純ではありますが、音階的な対旋律をソロで奏でます。
3'21''あたりにご注目
この曲の後半にも、実は目立つソロが!
5'56’’あたりです。
魔法の城
木管によるアンサンブルの一部を担います。
49'46''あたりです。
曲中で最もおいしいかも!?くるみ割り人形よりパ・ド・ドゥ
オーボエのもの悲しい旋律に対する応答を担当します。バスクラリネットの大変目立つ旋律の一つと言えるでしょう!
1:17'56''あたりです。
くるみ割り人形より「こんぺい糖の踊り」
これ、唯のベースラインなのですが、対旋律的でもあり、とても美味しいそろですよね。チャイコフスキーのバスクラ使いとしてとても有名なものの1つのようです。
個人的にはほかにもたくさん見習うべき点はあるように思います。
1:22'20’’あたり。有名な一節ですね。
旋律や対旋律のソリ
ドロッセルマイヤー登場シーン
ファゴット2本とのSoliです。この混合音色にもご注目(注聴?)いただきたい!
13'59''あたり
ネズミ大群とくるみ割り人形軍の戦い
ネズミの大群とおもちゃの戦闘シーンの音楽で、戦いのシーンにも関わらず、若干コミカルなのがとてもかわいい一曲。
ここでも、ネズミ軍の動機をファゴット2本と共に担当しています。
32'10''あたりです。
雪片のワルツ
1オクターブの旋律の下のオクターブを担当します。上のオクターブは2本のフルートと2本のクラリネット、下のオクターブは1本のバスクラリネットと2本のファゴットが担当します。
40'21''あたりです。
この曲も、旋律あり、ハモり有、ベースあり、対旋律あり…とバスクラリネットのポテンシャルを生かす書法満載です。
もうひとつ、上昇音形の音色の1つを担当しているのが聴こえるでしょうか?チェロとのユニゾンです。この音形もかなり美味しい。
43'33''あたりです。
少し脱線します。この曲のこの後ですが、コントラバスの刻みの伴奏の補強として、チューバが1オクターブ上の音域を単独で担当しています。これもチューバの使い方としては面白いのではないでしょうか。
くるみ割り人形より第二幕の「情景」
これもおいしいSoliです。この曲における新しい旋律を担当しています。
53'06''あたりです。
ソロが終わった後も、ファゴットと共にネズミの軍隊のテーマを奏でます。よく聞いてみるとバスクラリネットの音色がはっきりわかりますよ。
ジゴーニュおばさんとピエロ
イングリッシュホルン、クラリネット、ファゴットと共に旋律を担当しています。
1:06'13''あたりです。
目立つ伴奏、ベース
クリスマスツリーが大きくなるシーン
クリスマスツリーがだんだん大きくなる(実際はおそらく、夢の中でクララが縮んでいる)シーンのネズミが出てくるシーンのベースを単独でこなしています。
1stファゴットがネズミの動機を奏でています。
28'05''あたりです。
冬の松林
チェロとコントラバスのピッツィカートに対して、保続音を演奏します。
地味だけれどもとても大事な役割です!
36'56''あたりです。
この曲のバスクラリネットは、ベースとしての役割を多く担当しつつ、時々旋律の補助をしたり、和声の一部を担当したり、とても器用に、多彩な役回りを担当します。こういう書き方は見習うべき点が大変多いように感じます。
くるみ割り人形のCD紹介
少し快速テンポ気味でありますが、このCDは通常2枚組になることの多いくるみ割り人形の音楽が1枚に収まっています!
私は、少し速めなのが好きなこともあり、お勧めの一枚です!

- アーティスト: ゲルギエフ(ワレリー),マリインスキー劇場合唱団
- 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
- 発売日: 2010/03/24
- メディア: CD
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バスクラの目立つ別曲、交響的バラード「地方長官」
とてもマイナーな曲で、作曲番号としては遺作にあたる作品ですが、くるみ割り人形より先に書かれたものです。作曲者本人がスコアを引き裂いたと言われている作品ですが、私個人的には好きな曲だったりします。交響曲第五番とのカップリングで入っていたためにしっております。
中間から後半にかけても目立つソロが出てきます。必聴!
バスクラのポテンシャル
さて、ここまでくるみ割り人形の譜面を見ていただければお分かりかと思いますが、バスクラリネットは管体が長く、太いため、息を多く使う事や機動性においては、クラリネットに若干劣るのは確かでしょう。しかし、それでも十分な機動性を持っている楽器です。
くるみ割り人形の全曲をくまなく見ていただきたいですが、第二オクターブ含めめまぐるしく動いています。
低音を担当する楽器としては、十分すぎるほどの能力です。
吹奏楽でのバスクラリネット
チューバと同じオクターブか1オクターブを担当する…というイメージの強いかたもいらっしゃるかと思いますが、実際はそうとばかりもいえなかったりします。
星条旗よ永遠なれのバスクラリネットパートを見たことはあるか!?
海軍バンドの「星条旗よ永遠なれ」のバスクラリネットのパート譜を見たことはありますか?
ここから見ていただきたいです。
良く見るベースラインの1オクターブ上をなぞるのではなく、かなーり多くの旋律を担当しています。
吹奏楽のための木挽き歌
比較的現代的な響きのする楽曲で、とっつきやすい…とは言えないかもしれませんが、バスクラリネットが活躍する1曲であることに変わりはありません。曲終わりのソロにご注目。
バスクラリネットは吹奏楽でも活躍できるはず!
テナーサックス、バリトンサックス、トロンボーン族、ユーフォニアム、チューバなど音量ある楽器の多い吹奏楽においては、埋もれがち…と言えるのかもしれませんが、それでも、ファゴットよりは十分に強いと言える音量を持ち、木管低音のソロを1本で担当することもでき、その独特の音色と機動性で吹奏楽曲の新たな一面を開拓できるポテンシャルを持っている楽器だと思います。
例えば、木管楽器のみのアンサンブルのベースを単独で担当するのも有用な使い方と言えるでしょうし、くるみ割り人形の「パ・ド・ドゥ」のように、クラリネットでは出せない音域でくらりねっと属のソロを担当できるのも、バスクラリネットだけにできる個性と言えるのではないでしょうか!
私も、バスクラリネットが楽しい楽曲を作らねば…
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*1:表題付交響曲の「マンフレッド」を除きます。マンフレッドにおいては、コントラファゴットは使わなかったものの、ファゴットを3パート、残りの木管は特殊管を用いた完全3管編成で使っています