面倒くさいと敬遠されがちな楽典。そのひとつの楽式ですが、曲の構造や組み立てを理解することは楽曲を作り再現するのに必須の作業です。
敬遠せずに、「ふーん?」でもいいので知っておくとよいと思います。
楽式 楽曲の構成を知って、ストーリーを読み解こう
楽式とは楽曲の構成を表す形式のことである
音楽にもいろいろな規則(分類法)がありますよね。調性だったり、拍子だったり、和声法だったり…
今回取り上げる楽式は、音楽の構成を表す規則(分類法)の事です。
イメージとしては文章の「起承転結」や「序破急」、漢詩の「五言絶句」「七言律詩」、俳句や川柳の形式、短歌なんかの規則を思いうかべていただければわかるかと思います。
これらの文章の規則を知っていると、どこにどんな効果の文章が配置されるか推測ができますよね。例えば「起承転結」の「転」では、それまでの事をひっくり返す事件が起きる。
これを知っていると何がいいかと申しますと、構成のどの部分に、どういった効果のある音楽を配置しているのか?を推測しやすくなります。
楽曲の大きな構成を知ることで、ストーリーを表現できる
映画の脚本でも同じだと思うのですが、物語をどういう風にふくらませ、どういう風に寄り道をさせて、どのような結論へ持っていくのか、という設計をしたい場合、全体を俯瞰して、構造を考えて作る必要がありますよね。
逆に、脚本を演じる場合は、その点を読み解く必要があるわけです。
音楽でも同様で、ここはどういう部分で、どういった効果を狙っているのか?そして、全体としてどういうことを言いたいのか?というのを知ることは、感動を呼び、説得力のある演奏をするための第一歩と言えます。
構成を知ることは楽曲を理解するために大切な作業です。
ただし、何のネタもなく、ただ漠然と楽曲を眺めていても構成を理解することはできません。
まずは、標準的な構成を頭に入れることが肝要でしょう。
標準的な構成の知識があれば、分析対象の曲はどの構成に当てはまるのか、当てはまらないのか、当てはまらないとしてもどれに近く、当てはまらない部分はどう特殊なのか?理解する助けになるでしょう。
ということで、代表的な楽曲の構成(楽式)を解説してみたいと思います。
クラシックで使われる楽式達
構造をイメージで説明するために、アルファベットの大文字と小文字を使い分けて表示いたします。
A,B,C,...:相対的に大きなくくりの分類を表します。
a,b,c,...:相対的に小さなくくりの部分を表します。
「A,B,C,...」が大楽節「a,b,c,...」が小楽節のときもありますし、「A,B,C,…」が複数の大楽節「a,b,c,...」が単一の大楽節を表す場合もあります。
同一の文字は完全に同じものを表します。ダッシュ(')の付いたものは類似したものを表します。
一部形式
一番単純な形式といえるでしょう。
単一の大楽節のみで構成されるのが特徴です。すなわち、bまたはa’の部分で完全終止が現れます。
同様の「春が来た」や「赤とんぼ」は一部形式の楽曲です。
ちなみに、「春が来た」は三番まで歌詞がありますが、(ほぼ)完全に同じものの繰り返しであるため、それについては三部形式と捉えるのではなく、一部形式を繰り返したものと捉えます。
二部形式
唱歌、童謡などによく見られる形式です。
通常、楽曲のきりのよい終わりの部分が2つ見られます。
a-a'-b-b'の例としては唱歌の「紅葉」「ふるさと」
a-a'-b-a'の例としては唱歌の「春の小川」
などです。
三部形式
三部形式は単純なものから複雑なものまで出てきます。
一番上のイメージは二部形式よりも単純なものといえるでしょう。
真ん中のものは一番オーソドックスな三部形式かもしれません。
三部形式はなんなのか?と言いますと、要は、中間部とそれをサンドイッチする主要な部分の3つの部分からなる形式を指します。
A(主要な部分)がサンドイッチのパンで、B(中間部)が具のようなイメージです。基本的には「大事なことは何度も言いたくなる」と考えていただいていいかと思います。パンが大事ということです。
最後の例、言い切るのは難しいのですが、これも三部形式と捉えてよいものです。これ、実は英雄ポロネーズの序奏とコーダを除いたものです。
再現はとても短いですが、主要なaに回聞いています。主要なaを含む部分ではさんでいるため、三部形式と捉えてよいものと考えられます。
複合三部形式
ここから、だんだん複雑で大規模な曲に適用される形式が登場します。
複合三部形式はこのような形式です。
複合三部形式は、三部形式の各部分にさらに三部形式や二部形式を内包している形式を指します。
内包する形式は三部形式だけでも二部形式だけでも、混じっていても問題ありません。
拙作のタランテラは序奏とコーダつきの「A(a-b-a)-B(c-c'-d-c'')-A(a-b-a)」の複合三部形式の楽曲です。
ロンド形式
ロンド形式は何度も繰り返される部分とそれにはさまれた部分からなる形式です。
挟まれる部分が1度限りのものを小ロンド形式、最初にはさまれる部分が最後にもう一度現れるものを大ロンド形式と読んだりします。
ちなみに、はさまれる部分は2つに限定されません。なので、B,Cで終わらず、D,Eが存在する場合もあります。
大ロンド形式は、捉え方によっては複合三部形式に似ているようにも見えますが、Cの部分の比重によって変わると考えればよいでしょう。
ソナタ形式
こちらの記事でも解説しておりますので、あわせてこちらもご覧ください。
ソナタ形式はここまで見てきたものよりもより厳格なルールが定められています。
ソナタ形式の構成の見た目は三部形式に似ています。提示部と再現部に展開部がはさまれている形。
ただし、3つの点で異なります。
- 主要な主題が提示部ですべて表れる
- 主要な主題がすべての部分で表れる
- 調性配置のルールが定められている
1.主要な主題(第一主題、第二主題)は提示部ですべて表れます。三部形式でいうAの部分で両方提示されてしまことになり、この点が大きく異なります。
ソナタ形式の場合、誤解を恐れずに言えば、2つの主題の亜種のみで構成されます。これまでの形式の文字を利用すると、「a,b」とその亜種「a',a'',b',b'',..」のみで構成されます。
2.1.に関連して、この2つの主題が「提示部」でも「展開部」でも「再現部」でも表れる、すべての部分で表れる点もこれまでの形式と大きく異なります。ちなみに、細部に注目すれば例外はたくさんありますが、大局的には大きく逸脱しません。
「えっ?そんな主題がすべての部分で表れるなんて...それじゃあ、全部同じこと繰り返してることになるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、違います。
ソナタ形式は単調な繰り返しで聞かせる楽曲ではないのです。
では、どう違うのかと申しますと、主題を変形させて楽しむものなのです。同じ主題を使っていても、あの手この手で変化をさせて、飽きさせないようなものになっています。三部形式の中間部に当たる、展開部ではその変形(主題操作といいます)の技法を多用して、魅せ場を作ります。
主題操作についてはこちらの記事も参照ください。
3.調性配置が定められています。ソナタ形式と調性は切っても切り離せない関係です。
上の図を見てもらえればお分かりかと思いますが、提示部第一主題および再現部は主調(主に単調において、再現部第二主題は同主調が使われます)が使われます。
この3つの部分は同一の調性か、少なくとも同一の主音を持つ調が配置されます。この部分においては、曲の性格を決定付ける意味合いや、安定を求める部分であります。
それに対して、提示部第二主題は属調や平行調(または、その他遠隔調)で提示されます。これは、第一主題との対比のためであり、楽曲の緊張度(テンション)を上げる目的があります。
展開部は様々な調を行き来しますが、再現部の直前の部分においては、属調や、属音による長大な保続低音が置かれることが多くあります。これは、ドミナントモーションを利用し、テンションを上げて、上げて、上げて…元へ戻るぞー!という気分の盛り上げ、楽曲のハイライト形成を意図しているためです。
変奏曲形式
ある意味とても単純なものかもしれません。
ひとつの完結した形を変形させて聴かせる楽曲です。このaは大楽節と取っていただいて構いません。
変奏曲といっても、さまざまなものがありまして、旋律の修飾がメインで原型をほぼ保ったまま聞き取れるもの(きらきら星変奏曲、銀波、乙女の祈りなど)もあれば、(これは厳密にはシャコンヌにあたりますが)ブラームスの交響曲第四番の第四楽章のように途中まるで別物のように聞こえる(が、ちゃんと主題との関連のある)曲もあります。
きらきら星変奏曲。旋律の装飾によって主に変奏していくパターン。
ブラームスの交響曲第四番より第四楽章。もっと自由に変奏をしていくパターン。
J-POPにも形式がある
J-POPにももちろん形式があります。物事には、どんなに小さくとも、なんかしらの秩序だったものが必要ですし、広く受け入れられるにはその秩序がわかりやすく普遍的である必要がありますので。
ここで出てくるのは皆さんよーくしっている言葉だと思います。
こんな感じですね。
よくあるパターンの上は「Hello Again」、下は「遠く遠く」などです。
サビに大楽節、Bメロに小楽節が置かれることが多いでしょうか。Aメロはどちらもパターンもあるかな…BメロはAメロとサビをつなぐ部分という性格が強いため、キリのよいパターンであることは少ない印象です。
J-POPの形式を見ていただいてお分かりかと思い暗すが、多少の変化を伴いつつも、同様の部分の繰り返しがそんざいする。ちゃんと秩序だって作られてますよね。
これも、立派な形式と言えるでしょう。
形式に当てはめなくてもいい、構造を理解しよう
複雑な楽曲になってくると、いまいちどの形式に当てはまるかわからないものも出てくるでしょう。でも、一番大事なのは、この楽曲の形式が何であるのか知ることではなく、楽曲の構造を知ることです。
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