全音の難易度指定に反して、思いのほか簡単なこの曲。いや、難しいポイントはもちろんあるのですが、上級者向けなんて弾けないに違いないと思っている中級者のあなた!チャレンジできますよ。
「月光の曲」を解説・解析してみる ピアノ 弾き方
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲のソナタ第14番。幻想曲的ソナタとの名称もついておりますし、通称「月光ソナタ」と言われる楽曲です。もともと、厳格な形式美のソナタに、ロマンティシズムを取り入れ、新しい側面を追及した楽曲ともいえるかもしれません。
第三楽章は…かなーり難しいんです。上級者向け。第二楽章も曲者。
でも、第一楽章はそれほどでもなんですよ。
ピアノをろくに触ったことのない中学時代の同級生が途中まで弾けるようになった
見だしにありますとおり、筆者の中学生時代の同級生が途中まで弾けるようになりました。今でも親交ありますその友人、譜面はろくに読めず、ピアノも触ったことがなく、な状態で、行ってしまえば、ド素人だったのですが、なんと主部あたりまでは1時間くらいで弾けるようになりました。彼の家には妹さんがピアノを習っていたようで電子ピアノがありまして、その電子ピアノを使って、教えました~。
譜面が読めないので、ピアノの鍵盤で「こう弾くんだよ」と見せながら、彼が一小節一小節覚え(中学生当時で、若かったこともあり、覚えが早かったのです…)、根気よくの作業ではありましたが、ある程度弾けるようになりました。今はもう弾けないと思うけど。
そんなに恐ろしい曲ではない
何がいいたいかと申しますと、技術的には初心者でも、弾けないことはないということです。もしかしたら、その彼にセンスがあったのかもしれません。いや、多分弾くことに関しては人よりはあったのでしょう。いきなり両手で、結構弾けるようになりましたから…この曲右手で伴奏と旋律を担当するのですが、リズムが異なるという結構高度なテクニックが要求される楽曲ではあるのです。
とはいっても、全く触れたことがない人の例ですので、習って続けている人はもっと気軽に弾けるようになるでしょう。
中級くらいの方は是非チャレンジしてみたい人です。
動画
こんな曲です。
ドラマやアニメでも使われたことのある楽曲ですので、知っている方も多いと思われます。
楽曲解説その前にソナタとは???
「ソナタ」ってよく聞かれると思うのですが、実態がよくわからなーい…という方もいるかと思います。
ソナタとはソナタ形式の楽曲を含む、多楽章形式の楽曲を指します。ソナタ形式が確立される前などの古い時代の楽曲であったり、そうでなくても、時々含まないものがあったりと例外は存在いたします。例えば、ソナタ・アルバム2に収録されている、ベートーヴェンのピアノソナタ第12番にはソナタ形式の楽曲を含まない4楽章構成のソナタです。
ピアノソナタはたいてい3楽章構成で、ソナタ形式の楽章、舞曲風 or 緩徐楽章、ロンド形式の楽章等…で構成されます。
急速な楽章と緩徐楽章の両方で構成されるのが特徴で、対照的な性格の複数の楽章で一つのピースとして作られているものです。
ソナタと名のつくものは、器楽ソナタや、ピアノソナタなどがありますが、オーケストラで奏でられるソナタは「交響曲」と呼ばれますし、協奏曲も大抵ソナタと呼べる楽曲であることが多いです。また、弦楽四重奏で奏でられるソナタは「弦楽四重奏曲」、ピアノ三重奏で奏でられるソナタは「ピアノ三重奏曲」と呼ばれることが多いです。その編成の楽曲のタイトルを冠することが多いくらい、それらの楽曲が多産された時代の主だったジャンルの楽曲と言えるでしょう。
ソナタ形式とは
さて、ソナタについて記述してきましたが、「ソナタ形式」については触れておりませんでした。
ソナタ形式とは主に3つの部分からなる楽曲です。三部形式も主に3つの部分からなる楽曲の事ですが、ソナタ形式と三部形式で、その3つの部分に差があります。
メインの部分で真ん中の部分を挟むという構成は似ています。
ただ、主題の配置という意味において、両者は異なります。
どちらも、基本的にメインの主題は2つと考えてよいかと思います。便宜上「第一主題」「第二主題」と定義します。
三部形式の場合は「主部」と「再現部」に第一主題が、中間部に「第二主題」が配置されます。第一主題で第二主題を挟む形をとります。第一主題だけだと飽きちゃうから、違う部分を作ろう的な構成。
これに対してソナタ形式は「主部」に第一主題、第二主題の両方が、それどころか、「再現部」にも第一主題と第二主題の両方が配置されます。「主部」と「再現部」で第二主題の調性が異なるという差はつけられております。ソナタ形式の楽曲、調性の操作にも意味があります。同一の根音を持つ調は安定、「これぞ言いたいこと」という役割で、それ以外の調は変化をつけるための存在であります。
「えっ?展開部には何が配置されるの?」と申しますと、第一主題や第二主題の変形が配置されます。変形が簡単にすむときもあれば、変形、変形、変形、これでもか―な楽曲もあります。主題の形を変えて聴かせることを主題操作と言います。
主題操作のイメージはこちらの記事の中ほどをご覧ください。
ソナタ形式においても、第二主題は変化を持たせる効果はもちろん持っています。変奏曲という形はあるにせよ、一つの主題で長い曲を聴かせるのはなかなか大変なので…
とは言っても、ソナタ形式においては、中間で気分転換全く違うものを配置、ではなく、とにかく全曲通して、同じ主題を使い倒します。どうやって聞かせるのかというと同じ素材の味付けを変えるという方法で聴かせる楽曲です。
この主題を変化させる、主題操作というのがソナタが流行った一番の理由ではないかと思われます。と言いますのも、作曲者の技巧の見せ所であるからです。「俺こんなこと思いついたんだぜ、すごいやろ(ドヤ)」という楽曲なわけですね。
ちなみに、主要な部分が3つというだけで、序奏(前奏)が配置されたりコーダが配置されたりすることはもちろんあります(むしろ配置されることが多い)ですし、主題の数が2つとは限らないケースも多々あります。つなぎで使われる主題までいれたら、3つ4つでは聞かないくらい使われていることももちろんあります。
前置きが長くなってしまいました…では本編へ。
ちなみに、月光ソナタは「ソナタ」なので、ソナタ形式の楽章を含む楽曲ではあるのですが、ソナタ形式の楽章は実は第三楽章でして、今回の記事でご紹介する第一楽章には関係が無かったりします(汗)スコアを読み返してみたらソナタ形式と言えるかもと思えてきました…
基礎情報(拍子、調性、構成など)
2分の2拍子、嬰ハ短調、アダージオ・ソステヌート。形式はなんだろう?と眺めていたのですが、あれれ?これもソナタ形式と言えるのでは?と思うに至りました。
以下、2点がその理由です。
- 展開部とみなせる部分が存在する。
- 調性配置
1.について、後期のベートーヴェン作品にみられるような激しい主題操作はありませんが、「第二主題と解釈できる主題の主題操作が見られる」、「全曲通して聞かれる3連符の伴奏を主題操作と解釈できる(かも)」という2点から展開部とみなせる部分がそんざいします。
2.について、第二主題が提示部では「ロ長調で提示され嬰へ短調に落ち着く」のが、再現部においては「ホ長調で提示され、嬰ハ短調に落ち着く」。
これは属調転調の亜種ととらえられます。
提示部では属調(嬰へ長調)の平行調(ロ長調)、再現部では主調(嬰ハ短調)の平行調(ホ長調)であるためです。
では、構造を少し細かく見てみましょう。
こんな感じです。
各部解析
では、細かく見てみましょう。
序奏
4分の4拍子ではなく、2分の2拍子であることに、まず注意が必要です。拍の感じ方が全く変わりますのでご注意。アダージョのテンポ設定ではありますが、4分の4拍子に比べると、よりさらっと、和声の移り変わりもつまって、思いのほか早く通り過ぎるようなイメージです。
青枠。これはダンパーペダルを十分に生かして演奏せよという指示です。当時のピアノの場合は、もしかしたら踏みっぱなしでも問題なかったのかもしれませんが、現代の残響の多いピアノの場合は、コードに応じて、適宜踏みかえる必要があるでしょう。
赤枠の部分については、分散和音で書かれていると軽視しがちですが、 各声部の動きを意識することが大切です。
例えば、序奏の最後の2小節。4-5小節の分散和音を通常の声部書法に変えるとこのようになります。
アルトにあたる部分(上の五線の下向き符尾の動き)の3拍目の解決が送らされているのがわかるでしょうか?
1拍目も不協和度の高い和音です。
また、4拍目から2小節目の1拍目にかけての、ドミナントモーションも効果的に演奏するのが必要です。
この曲の伴奏全般において、このような点に注意が必要です。分散和音で書かれていてもその声部の機能がわかるように演奏しましょう。
小節内で細かく音が変わる部分は特に注意が必要です。
提示部 第一主題
ポイントはこの3点でしょうか。
- 赤枠:第一主題のメイン動機
- 黄枠:展開部で使われる要素と考えられる部分
- 緑枠:後述
1.第一主題のメイン動機です。英雄交響曲の第二楽章に通ずるものがあります。幻想的な曲調でもありますが、葬送行進曲的なものともとらえられます。これを正確に演奏するのは結構難しいです。3連符が鳴っている中、16分音符を入れなければなりません。右手で4:3を実現しないといけません。
よくあるのが、16分音符のある部分でテンポが落ちてしまう演奏。これは、三連符の淡々とした流れがなくなってしまい、情感のある演奏ではなく、停滞した演奏になってしまいますので、ご注意。ちなみに、停滞するくらいであれば、楽譜通りの演奏ではありませんが、16分音符を6連符の最後の1つで演奏したほうがマシだろうと思います。
ひたすら練習しましょう。イメージ的には「3連符の最後の音が鳴ったらすぐ16分音符を鳴らす」です。最後の3連符が鳴ってから16分音符が鳴る前の時間より、16分音符が鳴ってから次の小節へ行くまでの時間が長ければ、ほぼできていると言っていいでしょう。
2.こちらは、展開で使われる要素の1つととらえられます。展開部で使われるのは、第二主題のバスに出てくる音形とも取れますが、似ています。この部分と第二主題のバスも関連しているととらえてもよいかもしれません。どのように表れるのかは展開部の解説で記述します。
3.この書き方だと大変わかりやすいのですが、旋律の終わりの音かつ伴奏の始まりの音が共存している音です。上向き譜尾が書かれていない部分もありますが、書かれていなくとも、これと同じように演奏する必要があるでしょう。
ここの部分については、フレージングと和声の変化を十分に堪能できる演奏を心がけることが肝要でしょう。
フレージングについては、始まりと特に終わりに注意することが大切です。終わりは1拍目に配置されることが多いのですが、この音を強く弾きすぎないようにしてください。伴奏の開始の音を兼ねますが、伴奏は基本的に旋律よりは音量を控えて演奏するため、旋律の音量を意識して演奏してください。フレーズの納めの音は終わりを示すために音量を控えますので、それまでの旋律の音より音量的に飛び出すようなことがないようにしましょう。
和声については、主に臨時記号のついた和音が変化を伴う大事なものであるのと、和音の変わるタイミングが広い部分と、狭い部分の流れを考えて演奏するのが大切でしょう。前者は臨時記号に着目すればわかりますが、後者についてはベースの動きに注目すればわかりやすいでしょう。全音符の部分はタイミングが広い部分、二分音符や四分音符の書かれている部分は狭い部分です。
提示部 第二主題
ポイントはこの3点でしょうか。
- 赤枠:第二主題のメイン動機
- 黄枠:展開部で使われる要素と考えられる部分
- 緑枠:旋律の終わりの音かつ伴奏の始まりの音。
1. 第二主題のメイン動機はこちらと考えられます。シンプルな音形ですね。しかし、アウフタクト後の付点二分音符は倚音ですので、表情豊かに。
この小節に<>がついていますが、左手の四分音符による音形を考えると、仮にこの<>が書いてなかったとしてもつけて演奏すべきポイントでしょう。
小節内で大切な音を刻むポイントの多さの対比で、この小節と次の小節の動静を引き分ける必要があるでしょう。すなわち、この小節においては、旋律およびベースによって4点刻まれますが、次の小節において、アウフタクトを除けば1点であることに注目です。
4点ある方に大きな波を作り、1点刻むところで抑えるべきでしょう。和声でとらえてもそう演奏すべきように書いてあります。
2.について、第一主題の部分でも述べましたが、この部分が展開部で使われていると考えられます。
3.について、第二主題のみならず提示部を締めくくる旋律の最終音かつ、展開部を導く伴奏の開始音とも考えられます。
展開部
ここの主題操作ですが、ごく簡単に行われます。
まず最初は、展開部の開始にある属調による第一主題の動機(赤枠の部分)ととらえてもよいでしょう。続いては黄色で囲まれた部分。先ほどの第一主題および第二主題の部分で説明した箇所です。
特に第二主題のバスと音形と似ていますね。この動機を主題操作に使ったと考えられます。音程については第一主題と関連が見られます。
この後、分散和音による和声を聴かせる部分が続きます。その部分がすぎますと、もう一度主題操作が見られます。
こちらについては、第一主題の動機を用いたととらえられるでしょう。黄枠で囲まれた部分について、2拍目表の音が半音違いで用いられているところにも注目です。2回目は半音低められております。より、沈鬱な表現が求められると言えるでしょう。
再現部
再現部においては、基本的に提示部と同様のポイントを注意すればよいかと思います。ただし、楽章が終わりに近づきますので、曲を納める点については考慮が必要です。
結尾部
楽章の締め部分です。
赤枠の部分は見ておわかりと思いますが、第一主題の動機がこれでもかと繰り返されます。第一主題はその楽章で「一番いいたいこと」であることがおおいので、印象づける、忘れないで~。という事かも知れません。
黄枠については、結尾部にて、展開部の要素を取り入れたものとみなせます。三連符の形が音域をまたいで広く使われたのはここを除けば展開部のみです。これも曲の最後で、もう一度各部分を思い出してもらうような効果があると思われます。
青丸で囲まれた部分について、ここについては少し強調したほうが良いでしょう。タイでつながれた音符です。
紫丸の部分、この楽章のみ単独で取り上げられることも多いですが、もともとは三楽章で一つの作品です。attaccaの意味は「次の楽章と間を開けずにつづけて演奏せよ」です。なので、この曲全体で見たときには、続けて演奏することを念頭に書かれたものである。ということは忘れてはいけません。
技術的なポイント
3:4の獲得
各部解説でも述べましたが、右手片手のみで、三連符と付点八分音符+16分音符の音形を弾く必要があります。
この3:4の比率の異なったリズムを片手で弾くのは慣れるまでは難しいです。
しかし、感覚をつかみ、一度この感覚を獲得してしまえば、難しさも感じなくなりますし、他の曲で同じような音形が出てきたときにも気負わずに取り組むことができるでしょう。
前の部分でも述べましたが、イメージ的には「3連符の最後の音が鳴ったらすぐ16分音符を鳴らす」を意識してやると獲得しやすいかもしれません。
展開部とコーダの三連符は重心移動
この曲に限りませんが、広い音域にまたがる音形については次の音を意識した手首の重心移動をうまくするととても弾きやすくなります。高音のほうへ徐々に移動していくときは、手首を右側へ突き出す感じで、逆に低いほうへ行くときは左側へ向けるような意識でいくと弾きやすくなると思います。
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全音ピアノピースの難易度は6段階中上から二番目のEです。
ただし、この楽章のみで考えると、個人的には下から3番目のC程度ではないかと思います。初級を脱して、中級者へ差し掛かったくらいの奏者で十分取り組める曲だと思います。
ちなみに、全音のソナタアルバム2には月光ソナタの全曲が収録されています。
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