比較的平易な曲ではありますが、旋律に対して3度ハモりがあることや右手と左手で追いかけっこ(多声的)な部分があるという点に難しさがあります。
楽しき農夫でも同じようなことを申し上げました。
なんてことない曲に見えますが、侮るなかれ…ト調のメヌエット
では、見てみましょう。
「ト調のメヌエット」を解説・解析してみる ピアノ 弾き方
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲の「6つのメヌエット」の2曲目にあたる曲です。若いころの作品で気軽に楽しめる楽曲になっておりますが、後半にポリフォニック(多声的)な動きがあったりして、楽曲の構造としてもなかなか面白いものになっております。
なお、もともとはオーケストラ作品であったようです。
動画
こんな曲です。
メヌエットとは?6拍で1セットのステップを踏む舞曲である
楽曲解説の前に、メヌエットとはなんぞや?という事に触れておきたいと思います。
フランスの民俗舞踊が起源の踊りで当時の宮廷で大流行した踊りだそうです。
3拍子で書かれますが、実は6ステップで1セットのダンスなので、6拍子というか2小節で1セットでフレージングされることがほとんどです。メヌエットの様式を使った自由な楽曲はこの通りでないことがありますが…
ちなみに、アウフタクトがあることが多いのですが、アウフタクトの部分でステップの準備というか膝を折り曲げるという事をします。
こんなイメージ
動画と合わせてみるとわかりやすいかもしれません。
お子様たちとステップをやってみようという動画を見つけました。いい試み。
(膝折り曲げ、ステップ)×2、ステップ、ステップというのが1セットです。
楽譜と動画を合わせてみていただけるとわかりやすいかなと思いますが、楽曲の重心としては4拍目、つまり2小節1セットとした場合の2小節1拍目に重心が来ます。
演奏をするうえで、この点を考えるといいかなと思います。旋律のフレーズ的に収まる部分でも、伴奏形は4拍目で終わらずに5拍目まであることが多く、この場合は4拍目はすこーしアクセントを伴います。すなわち、旋律にアクセントは不要でも、伴奏形として、4拍目にアクセント、5拍目で納めると考えるとよいでしょう。倚音リズム的ですね。
倚音リズムについてはこちらでご紹介している書籍で出てくる言葉です。
倚音とは音楽表現上、最重要な音の一種です、ご興味のある方はこちらの記事をご覧ください。
ちなみにメヌエットは、途中からスケルツォにとってかわられてしまったものの、それまでは交響曲の1つの楽章として組み込まれるほどの楽曲でもあったりします。それだけ人気があったのでしょうね。
「ワルツとの違いは何?」というのもよく話題に上がりますが、ワルツは3拍で取るダンスで、1拍目に重心があり、その程度がとても大きいものです。
ステップについては、私はよくわからないのですが、この動画を見ていただくと1拍目に大きく踏み込んでいるのがわかるように思います。3拍目で1拍目へ向けての動きだしをしたり、3拍目で止まっていたりというのもわかると思います。
ちなみに、ワルツの日本語名は「円舞曲」です。由来となったのかは私は知らないのですが…ワルツは男女ペアになって、くるくる回りながら踊るものであったりします。
蛇足です、基本3拍子のワルツですが、5拍子のワルツなんてものもあったりします。チャイコフスキーの悲愴交響曲の第二楽章は有名ですね。
前置きが長くなってしまいました…さて本編へ。
基礎情報(拍子、調性、構成など)
4分の3拍子、ト長調、トリオを伴う複合三部形式の楽曲です。
形式を具体的に見るとこんな感じです。
- メヌエット:A(8小節)×2、B(8小節)×2
- トリオ:A(8小節)×2、B(8小節)×2
- メヌエット(最初と同じ)
ダ・カーポ後、現代においては繰り返さないのが通常ですが、繰り返していた時代もあるようです。
各部解析
メヌエット部
まず、記号の説明をします。
- 赤上矢印:ステップの重心
- 赤楕円:倚音
- 青枠:フレーズのまとまり
- 黄枠:フレーズの重心と考えられる場所
- 緑枠:後述
1.については、上のメヌエットとは?の部分を見ていただければよいかと思います。四分音符で1、2拍のみで収まっている部分(特にオクターブ変更の部分)については、1拍目に重心(アクセント)を付けて2拍目は納めるというのをするとよいかと思います。
2.について、倚音です。倚音についても、上で紹介いた記事をご覧いただきたいのですが、表現上とても重要な音で、誤解を恐れずに言えば、アクセントを伴います(アクセントの表現はたくさんあります。この曲のこのアクセントについては衝撃的な音にしていいものではありません)。さらに、もっと大事なのは解決音(倚音の次の音)にアクセントをつけてはならないということです。
3.4.はまとめて考えていただきたいのですが、3.のフレーズで考えたときのそのフレーズの重心と思われる場所が4です。ステップの重心とは一致しませんが、フレーズの重心もまた大事にして演奏すべきでしょう。フレーズの重心を尊重しつつ、ステップの重心も少し意識する。程度の割合が好ましいのかなと思います。
5.緑の枠ですが、これは音符のグルーピングとして示しました。決して1拍2拍がセットになるのでなく、sfのついた音符と次の音符がセットになるようにしてください。と言いますのも、sfのついた音は次の音を装飾する役割を持った音であるためです。
このsfも刺激的な音になるのは、良くないと思いますが、書かれているsfは必ず表現するようにしてください。キツイ音ではなく、重さのある音のイメージで演奏するとよいかと思われます。
伴奏はレガートで演奏すべきか?
個人的な解釈では否です。ただし、短く演奏するのも変で、イメージとしては、コントラバスの一弓をイメージしていただければよいかと思います。決してレガートでは弾きませんが、余韻と響きを十分に伴った4分音符で演奏するのが良いかと思います。
トリオ部
メヌエットやマーチの中間部にあたる部分をTrioという事があり、2つの主となる部分に挟まれた部分の事を指します。
メヌエット部と異なり分散和音で作られた、流れるような旋律になっております。ちなみに旋律を単純化すると、ほとんどが第一拍の音を付点2分音符にしたもの(ただし、1.2.括弧の音は2拍目のGが核になる音)になり、それを装飾したものとみなせます。そのことを念頭に演奏するとフレーズや音楽表現がしやすいかなと思います。大事な音がどれなのかを意識する。
では、マーク付けした部分を解説いたします。
- 赤枠:倚音
- 緑字:想定されるコード
1.については前述のとおりです。ただし、ここについてはフレーズの収まる部分に出てきますので、あまりにも強調するとおかしくなります。収める瞬間をちょっと焦らす…程度のアクセントが良いかと思われます。
2.想定されるコードを付けてみました。一部迷ったところは両方乗せてしまいました。(ずるい)
途中2つ書いてある部分があります。これは私独自の解釈かもしれませんが、D - - - -と書いてある部分について、ここはDの保続音が鳴っていると解釈してもよいのかな???と思いました。トリオのハイライト部分であり、緊張感を保つ効果として、Dの保続音…がなかったとしても、それと同様の効果を期待される部分であると考えられます。
さて、ここのフレージングですが、どう解釈されますか?
私は最初は8小節で1フレーズ。続いて4+4で解釈するのが良いかなと思います。
8小節は比較的長く感じますが、そういう息の長いフレーズと考えてよいかなと思います。たとえば、ヴァイオリンで奏でる場合は8小節ずっとレガートで演奏してもいいかなと思います。スラーは運弓の指示*1ととらえるとしっくりくるかと思います。
技術的なポイント
上級へのいざない 右手旋律の三度
この曲の難しさのほとんどはこれにつきます。三度の連続はピアノの技術における最難関だったりします。とはいってもこの曲についてはゆったりテンポで、音階を駆けあがるでも駆け下りるでもなく、行ったり来たりするだけなので、まだ、なんとかなりますが…
が、が、が、しかし。
とは言っても、
この3度をぴったり同じタイミングで弾くことも難しいですし、旋律の方を立たせることも難しいです。
と言いますのも、旋律は一般に弱いとされる小指や薬指を使って弾くことが多いためです。
一般的な楽譜には指番号が振ってあると思いますので、その運指に従ってたくさん練習されることをお勧めします。中級以上の方や、どうしてもうまく行かない場合は、別の自分にあった方法を考えてみてもよいでしょう。
楽しき農夫でも触れましたが、ここでも、難しい同音連打が出てきます…
この部分については、どうしてもすこーしだけ間を開けないと弾けないかと思います。もーし、可能であれば、ハモりの方を、ほーんのわずかだけ短く弾いて、旋律はレガートで…ということも検討してみてください。
とにかく練習練習練習です。
自分だけでやっているとうまく弾けているかわからないものなので、人に聞いてもらってコメントをもらうのが良いでしょう。先生にここはどう聴こえますか?と尋ねてみるのもいいかと思います。
でも、人にごちゃごちゃ言われるのはいやだ…というお方は、録音して自分で聞いてみてはいかがでしょうか?
人に言われるより、すっと納得できたりしますよ。お勧めです。
表現に気を付ける
これも、言うまでもなく気にすることですし、みなさん気にされていると思うのですが、難しいことをやっているとないがしろになりがちなんですよね。
旋律を美しく、フレーズを意識して弾きつつ、伴奏形はステップを意識したものにする。という2点を両立できれば、ぐっと格好いい演奏になるでしょう。
時々出てくる、旋律的なベースについては、レガートを意識して弾いているのもよいかと思います。
例えばこの赤い部分とか。
緑も部分も、レガートまではいかずとも、グルーピングを意識した演奏をするとよいでしょう。
楽譜入手
全音ピアノピースでは楽しき農夫とセットになっておりました。
短いからだねきっと…

ピアノピースー015 ト調のメヌエット・楽しき農夫 (MUSIC FOR PIANO)
- 作者: ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
- 発売日: 2008/09/25
- メディア: 楽譜
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全音ピアノピースの難易度は6段階中下から二番目のBです。
うーん、妥当と言えるようにも思います。ハモりと共にの3度も難しいですが、トリオの分散和音による旋律も案外難しいです。
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この曲のもう一段階上の難易度である、チャイコフスキーの「舟歌」の解説記事です。
この曲より、少々簡単かな、同じくらいかな?といった感じの「紡ぎ歌」の記事です。
弾いたことある曲や、指導したことあるピアノ曲の解説記事を書いておりますが、その一覧です。
*1:絶対ではないのですが、弦楽器の譜面に書かれたスラーは運弓の単位のことがあります。すなわち、スラーの単位で弓を返す(上から下へ、下から上へ)ということです。