比較的平易な曲ではありますが、旋律を左手で演奏することや片手で2つの異なったアーティキュレーションを再現するという独特の難しさがあります。「子供向け!短いし!」なんて侮るなかれ…
では、見てみましょう。
「楽しき農夫」を解説・解析してみる ピアノ 弾き方
ロベルト・シューマン作曲の「子供のためのアルバム 作品68」の10曲目にあたる曲です。子供のためのアルバムとの命名から想像できるかと思いますが、簡単で楽しい楽曲が取り揃えられています。
ただ、この曲については、今までの常識で考えると、実際の難易度よりも難しいと感じる可能性があるかなと…思います。そこらへんを踏まえて詳しく見ていきましょう。
動画
こんな曲です。
年長さんの演奏ですって!楽譜に忠実に正確に弾いていて、関心します。忠実に正確に…というのが私にはない属性…で、すごい…
基礎情報(拍子、調性、構成など)
4分の4拍子、ヘ長調、三部形式(?)…と言えるでしょうか。
この曲の形式を述べるのはちょっと難しいかも…
形式を少し詳しく見てみますと、A(4小節)-A(4小節)-B(2小節)-A'(4小節)-B(2小節)-A'(4小節)という形になっています。
ABA'が原型で、Aの2回目は主題の確保。後半のBA'は完全に繰り返しなので、同一とみなしてもよいかなと思います。
一点気になるのが、Bが2小節ととても短いことで、Bを1つの部分でなく、BA'を1つとみなすと、二部形式ともいえるのかな?とも思いました。二部形式のよくある形にAA'BA'と言うのがあって、それに近いともいえるのかな…と
しかし、しかし、AとA'の長さと音楽的な内容の比重が完全に一緒であるため、三部とみなしたほうがいいのかな…ということで、三部形式。
ですが、あまり自信がない…
形式が三部形式であるかどうか、よりも、どういった構成をしているのか?を知るほうが有意義なので、この点はあまり触れないで、ください。(逃げ逃げ…でも、形式云々よりもどういう構造なのかを知ることが本質であるのは事実かと思います)
各部解析
左手のレガートと右手のスタッカートが肝要 前半
2段ありますが、2段目は1段目とほぼ一緒なので、解説を省略します。
フレージングは大きく2つ考えられます。青枠と赤枠。青枠で考えると頂点は3小節目(一番最初の小節は不完全小節(4拍子に満たない音符の数しかありませんよね?)と言いまして、通常小節数にカウントしません)の第一拍目になるでしょうか。
赤枠で考えると、2小節目と4小節目とも考えられますが、青枠が最優先、それがわかる範囲で赤枠のフレージングも少しやってみる…がよいかと思われます。
ちなみに、青枠の部分は属和音で終わる「半終止」と言われるもので、曲の途中で使われるものです。「キリのいい途中」なので、その感じを出してください。くれぐれも終わらせないように。
この曲の肝は、旋律を朗々とレガートで歌う事と伴奏を軽快に演奏することの両立です。
ピアノ曲の旋律は右手で演奏することが多く、特に難易度の低いピースにおいてはその傾向は顕著である中、左手の低音部に旋律のあるこの曲はとてもユニークな存在です。
初めて左手でレガートの旋律を演奏する人にとっては、それはとても難しいことのように感じるかもしれませんが、こういうものは慣れなので、ひたすら練習しましょう。
ちなみに、一番難しい部分(曲がりなりにも、E、F難度を弾く身としても、「あっ、これは案外難しい」と思うポイント)は後半に出てきます。
これはまだ序の口。頑張りましょう。
最初に左手で旋律を弾くむずかしさを書きましたが、実は伴奏の方が難しいでしょう。
おそらく、多くの方は左手の旋律に気を取られることが多いと思います。となると右手も左手の弾き方の影響を受けやすい…と言えます。
左手は「レガート」です。右手は「スタッカート気味」に弾く必要があります。右手をスタッカートで弾くのは最初は難しいでしょう。
右と左を別々に練習したら、問題なくできるはずです。両手で同時に違うことをするというのが難しいのです。これは「両手同時に弾き、右左の表現の違いを成立させる」という状態を体にしみこませる必要があります。頑張りどころです。
もう一点、大事なことは右手の伴奏は2つ目より1つ目、4つ目より3つ目が大きいのが正解。ということです。「2つ目が1つ目より、4つ目が3つ目より大きくなってはいけない」という表現の方が正しいでしょう。
考え方としては、左手の1、3拍に重心が来るため、誤解を恐れずに言えば、「強い 1拍表 > 1拍裏 > 2拍表 弱い」を成立させる必要があるためです。
2拍目裏については、3拍目への推進力を持たせるために、2拍表とは違ったアプローチが必要になります。3-4拍目についてもこれと同じことが言えるでしょう。
特に収める部分においては2拍表、4拍表が大きくなるのは絶対にNGです。
ただし、例えばcresc.の途中である場合などは、これに限りません。が…アクセントがついてしまうのはやはりNGです。
ちなみに、黄色枠で囲った部分は音価が異なりますのでご注意。そして、長い音符は短い音符より音が強くなりがち(かつそう聴こえがち)であるということにより注意です。この前で述べました、2拍、4拍が大きくならないように…を守れるよう注意しましょう。
はー、こんな短い曲なのに、ここまでで大分長くなってきました。
続きます。
右手のみで2役同時にこなすのが最難関 後半
BA'をまとめて後半といたします。前半より後半の方が大分難しくなっております。
後半も二回続くので、わかりやすいように後半の部分にマークを付けました。赤枠と青枠の部分は、形式の部分で述べましたBの部分です。
こちらのみ、右手に旋律が移ります。左手はハモりと考えてよいでしょう。
ここの部分は技術的に難しいですが、表現については、書いてある通りにやれば概ね問題ないでしょう。すなわち「アクセント」のついた音に、ちゃんと重心を乗せて弾けばOKです。
絶対にやってはいけないのは、フレーズが収まる部分の3拍目の付点四分音符にアクセントが「ついてしまう」こと。
細心の注意が必要です。
後半のA'ですが、ここへきて、旋律が右と左でオクターブユニゾンになります。fの指示もありますし、ここが一番豪華に、ウキウキ、ワクワク、した表現になるように演奏するのが大切です。特に橙の枠のところはハイライトになるような弾き方がお勧めです。
また、スラーのかかり方が違うことにもご注意!個人的には後半の掛け方はより自然かなと思われます。と言いますのも、曲頭は最初の見でしたが、こちらは、アウフタクトから何度も始まるようにスラーがついていますよね。
スラーのついている範囲にもご注目。固定ドで行きます、「ドファー、ラドー、ファシbレファレドー」とついておりますよね、1とー、3とー、1234といったくくり。伝わりますでしょうか…2拍+2拍は4拍の連続へ向かう準備運動、布石的なイメージで行くといいかもしれません。ドファー、すこしテンションを上げてラドー、テンション高くファシbレファレドーのようなイメージです。
さて、難易度に関してですが、橙の枠のところが一番難しいです。かなり弾ける人でも、うまく弾くのは大変かもしれません。特に緑の太枠で囲ったところです。
難しいポイント
- 右手で旋律+伴奏の両方を弾かなければならない
- 旋律はレガート形、伴奏はスタッカート系である
- 同音連打がある
1.2.については、想像がつくかと思いますが、3.については「なんじゃらほい?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
橙枠の旋律「Bb、D、F、D」のところをご注目ください。1拍目裏が難しい場所です。
1拍表で旋律がBbを演奏する。1拍裏で伴奏がBbを演奏する。
この連打が難しいのです。
しかも、同じように弾いていい連打ではなく、レガートの後のスタッカート気味かつ旋律より目立ってはいけない。
高等テクニックです。
「うまくいかない…」と頭を抱えるあなた!いや、うまく行かなくても当然です。とても難しいです。
でも、出来ないことはないので、頑張ってみましょう。
技術的なポイント
レガートとスタッカートの共存
各部解説でも長々と書きましたが、これが肝です。この曲の難しさのほとんどはこれにつきます。
左がレガート、右がスタッカートも難しいですが、片手でレガートとスタッカートを両立はもっと難しいです。
前者については、両手で違うことをする。というのを意識してやっていれば自然とできるようになるでしょう。
後者については、本当に難しいですが、とってもゆっくりなテンポから、鳴らしていきましょう。
まずは、片手で2種類の表現をすることから慣れてみましょう。
2種類の違うことをするなので、例えば、「4分音符と8分音符を片手で同時に弾いてみる」でもいいわけです。
この曲で練習するならば、とてもテンポを落として、旋律を8分音符で弾き、伴奏を16分音符で弾いてみる。でもいいかもしれません。
表現に気を付ける
これも、言うまでもなく気にすることだし、みなさん気にされていると思うのですが、難しいことをやっているとないがしろになりがちなんですよね。
前述した、重心を置くべき音とそうでない音の違いをきっちりやりましょう。
解説の部分では述べませんでしたが、最後の小節もそうで、重心はかならず1拍目。3拍目は納める終わりの音なので、気を遣ってください。最後に限っては2拍目よりも強く弾いてはいけません。
言わずもがな、右手の3拍裏、4拍の音は左手3拍表の音より強くなってはいけません。
楽譜入手
全音ピアノピースではベートーヴェンのト調のメヌエットとセットになっておりました。
短いからだねきっと…
ピアノピースー015 ト調のメヌエット・楽しき農夫 (MUSIC FOR PIANO)
- 作者: ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
- 発売日: 2008/09/25
- メディア: 楽譜
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全音ピアノピースの難易度は6段階中下から二番目のBです。
うーん、妥当かも…私最初Aレベルだろうと思っていたけど、それは記憶が捻じ曲げられておりました。
この解説を書くにあたって、思い出して弾いてみましたが、「おぅふ…けっこう難しいorz...」って感じでした。
なんてことない曲に見えますが、曲者です。
蛇足、文明堂…ではない!
はい、どうでもいい思いつきです。この曲どうしてか文明堂のカステラを思い出しちゃうんですよね。CMの音楽です。でも、あの音楽「楽しき農夫」ではなくて、「天国と地獄」のギャロップなんですよね。
曲がなんとなく似ている…気がするのは…私だけ???
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