おそらく、ピアノ弾き以外は知らないのではないかと思われる。この曲…比較的平易な楽曲の割に、楽しくて聞き映えもします。発表会で取り上げる方もいるのではないでしょうか?
ピアノ曲 紡ぎ歌を解説・解析(アナリーゼ)してみる ピアノ 弾き方
演奏動画 解析の前に…
おそらく知らない方もたくさんいらっしゃると思うので…先に動画を貼り付けちゃいます。
こんな曲です。現代においては、ほぼこの曲のみで知られている作曲家ではないでしょうか。
IMSLPでもこの曲しか見つけられませんでした…
Musikalische Genrebilder, Op.14という曲集の5曲目ということのみわかりました。どうやら7曲で1つの作品になっている模様。タイトルを訳してみると「音楽の風景画」という意味になるようです。
おぉ、でもわかりやすいですね。糸紡ぎをしている様子ということでしょうか?当時の風俗からすると、女性の仕事なのかな?
基本情報(拍子、調性、構成など)
4分の2拍子、ヘ長調、アレグレット(アレグロより程度を弱くしたものです。アレグロが快速テンポの指示なので、それよりやや落ち着いたテンポと考えればよいでしょう) 三部形式…いや、「前奏-A(a-b-a)-B(c-c')-A(a-b-a)-コーダ」の複合三部形式と解釈してよいでしょう。
構造を少し詳しく見てみます。
前奏-A(a-b-a)-B(c-c')-A(a-b-a)-コーダ
- 前奏 2小節
- A a(8小節) - b(8小節) -a(8小節)
- B c(16小節) -c'(9小節)
- A 前奏(2) - a(8小節) - b(8小節) -a(8小節)
- コーダ 5小節
主調はヘ長調ですが、中間部Bにて変ロ長調に転調し、後半さらにイ長調に転調します。
この曲の演奏難易度の割にかなり高度な転調ですね。
各部解析
リズミックな主部
左手の伴奏を見ていただければ(または聞いていただければ)わかると思いますが、単純な八分音符の音形ですが、とてもリズミックな音形ですよね。
軽く演奏するのが良いかと思います。
さて、ポイントを記してみます。
- 赤字 倚音
- 緑 シンコペーション
- 青 決め所
- 水色 poco riten.の意味
赤字の部分は倚音と考えてよいかと思います。そもそも、情感たっぷりに歌う曲ではないので、表現しようとしすぎないのが良いかと思います。
緑の部分のシンコペーションですが、こちらをシンコペーションじゃなくすと???
こんな風に、左のようになります。
でも、これが本来の形で、これをリズミックに面白くするために、右のようなシンコペーションの形にしております。
もともと次の小節の頭に合ったものを、わざわざ前だししているため、シンコペーションの音にはアクセントが付いています。
また、この短いフレーズの重心はシンコペーションの音です。
2小節目の2拍目の音は四分音符であるべき(短くし過ぎない)だと考えますが、この時の注意点として、2拍目にアクセントをつけないということです。
何も考えずに無意識に演奏すると、長い音符にアクセントがつきがちです。(そもそも音価の長い音は印象にのこりがち)
また、この曲については、四分音符の前の八分音符にスタッカートがついておりますので、より注意が必要です。
青い矩形で囲まれた部分、ここはアクセントがついており、かつfになっており、決め所です。で、気を付けるべきは実は次の音、2拍目裏の左手の音です。
これを同じようにアクセントをつけてしまわないようにご注意ください。
水色の囲みのpoco riten.ですが、ritenは直ちに遅くの意味です。rit.とは違いますのでrit.のようにしないようにご注意ください。
落ち着いた 中間部
この譜面の5小節目からが中間部です。
旋律が左手に移り、右手がコードを叩く伴奏を担当します。
主部では1拍毎に低音のビートが刻まれましたが、中間部は2小節ないし1小節毎と間隔が広くなります。感覚が広くなった分落ち着いた雰囲気になりますので、表現もそうするのがよいと思います。
ここのポイントはフレーズの表現です。
まず、小さく2小節単位で作られていますが、この部分の2小節目の1拍目の音、ほとんどがスラーの末尾の音になっておりますが、これはフレーズの終わりの音ですので、収めて下さい。決して大きく弾かないように。
逆にフレーズ始まりの奇数小節の頭の音に重心を置くようにするとよいでしょう。
フレーズをもう一段階大きくとらえた場合は4小節です。コードに注目していただきたいのですが「〇7→〇7→〇→〇」と7音を含む小節×2+3和音の小節×2となっていますね!
この7音を含む音はドミナントで3和音はトニックと考えていいかと思います。
ここまで書けばお分かりの方もいらっしゃると思いますが、ドミナントはトニックへ向かいたがる緊張する和音、トニックは落ち着いた主和音となりますので、ドミナントを緊張感のあるように(=強め)、トニックを安定した音で演奏するようにしてください。
なお、この4小節単位の構造は9小節目からは縮小されて2小節単位になります。
後半です。
この図上の6-7小節目については、転調の肝の部分です。クレシェンドが書いてありますが、その通りに演奏しましょう。
個人的には7小節目の頭のBb音は大切な音なので、少し強くしてもよいかなと思います。
さて、赤丸で囲った部分はどういう音強で演奏するべきでしょうか?
前後にあるのが両方「p」ですね。しかし、後ろのpよりまえにcresc.が書いてあります。
ということは、pより大きいところへ一度持って行く必要があり、次のpで小さくするという事をする必要があると考えられます。
このケースはcresc.の到達点の音強を指定していない、奏者に任されていると考えてよいと思います。
ただし、少なくともfより大きいことは考えられないでしょう。mpかmfあたりが妥当ではないでしょうか。
右手に旋律が戻った部分からはイ長調に転調しています。
ここからは、左手の1拍目がベース音になりますので、この音は左手の残りの音よりは少し重さをもって弾くのがよいでしょう。
青丸で囲った部分は、前半同様、フレーズの終わりの音なので、収めてください。
再現部に戻る前に、大胆な転調があります。
コードに当てはめて考えてみると「A-Bb-G7-C7」というコードと推測できます。コードの根音のみを演奏していると考えてよいでしょう。
再現部は主部と同じなので割愛します。
短く 簡潔な コーダ
主部の形を少し変形した形のコーダになります。
名残惜しいような、余韻のような終わり方ですね。
コードの考え方は図のように「C7→F」と考えてよいでしょう。
赤で囲まれたDの音は倚音と考えてもよいですが、あまり強調するのはおかしいかなと思います。
最後、レガートで演奏しているのもよく聞きますが、この譜面の通りだとすれば、完全にレガートではないほうがいいのかもしれません。ただし、スタッカートのついた部分とは明確に変えるべきでしょう。
後奏の左手のE音は刺繍的なベースと考えられます。
技術的なポイント
左と右の独立が大切な主部
左手が軽快な八分音符のスタッカート、それに対して右手にはレガートの指示があります。その差をしっかりつけられるように、お互い引きずられないように独立性を高めて演奏できるようにするのが大切かと思います。
左手はもう無意識に、かるーく、かるーく演奏できるような状態にするのがベストでしょう。
左手の旋律を滑らかに演奏したい 中間部
バロック時代の曲をやっているのでもなければ、この曲を取り組む頃に左手で旋律を演奏するという機会はあまりないのではないでしょうか?
そういう意味で、貴重な技術レベルアップの機会です。
慣れないことをやるからうまくいかないだけなので、とにかく、慣れましょう。
逆に右手はかるーく軽くです。主部の左手のイメージです。
スタッカートはついていませんが、スタッカート気味。少なくとも音符がつながって聴こえるようには演奏しないようにしましょう。
オクターブの練習 中間部後半
オクターブを完全に同じタイミングで演奏する…というのは案外難しいものです。中間部の後半、右手の旋律に出てきますね。レッスンを続けていれば、いずれ旋律がオクターブの連続で成り立っているものも出てきますので、この機会に第一関門を突破しておきましょう。
旋律は右手の小指が担当しておりますので、右手の小指を強く、大きな音で演奏できるよう良く練習しましょう。
番外編、面白いアレンジの動画を見つけました。
ピアノ発表会での企画なのでしょうか?
貴重なアンサンブルの体験になりそうですよね。
楽譜入手
上記、IMSLPからも入手できますが、全音のピアノピースにもあります。
難易度はA~Fの6段階中、一番平易なAです。
とはいえ、体感ではバイエル終了かある程度まで来た段階で弾けるくらいの難しさかなと思います。
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