こんばんは~、今週もやっと終わりが見えてきましたねー。
今日はスコアについて書いてみようと思います。
スコア研究の楽しみ「くるみ割り人形」より「中国の踊り」
スコアを読む楽しみ!
さて、突然ですが、この記事をご覧のみなさんはスコア(総譜)を眺めながら、曲を聞くことはありますか?
オーケストラや吹奏楽の曲を聞かない人…はわからないかも。(あ、でもバンドスコアって手もありますね!)
今日は、スコアを見ながら曲を聞くと新発見があって、脳が満足するかもよ???ってお話です。
と、その前に…
くるみ割り人形より「中国の踊り」の演奏を聞いてみましょう。
さっそく、動画です。
チャイコフスキーのくるみ割り人形より「中国の踊り」 (お茶)です。
いわずとしれた有名曲ですよね!
コミカルな低音のファゴットとベースのピッツィカートにいざなわれて、ソロフルートが変ロ長調の音階と分散和音からなる旋律を高らかに奏でます。
1分程度のとても短い曲ですが、チャイコフスキーの魔法のような管弦楽法を垣間見ることができます。
クイズ「ファゴットの楽譜はどうなっているでしょうか?」
さて、クイズです。
この曲の冒頭のファゴットはどんな楽譜を演奏していると思いますか?
ファゴットがわからない方はこちらをご参照ください。
低音を担当する木管楽器です。見た目はバズーカ砲の構え方を変えた感じ。
軽快で、コミカルな音を出すのが得意です。この楽器の音色自体独特ですが、しかし、他の楽器の音色を邪魔しないので、多用されます。
ベースの補助をしたり、ハーモニーを担当したり、オブリガートを担当したり、メロディを演奏したり、もちろんソロもたくさん出てきます。
ちなみに、英語では"Bassoon"と言いますので、お間違えのないよう。ファゴットだと別の…しかも問題があるかもしれない意味になりますので、ご注意を。
クイズに戻ります。
これが聞き取れたかた。
スコアを見る前の私と同じです!
半分正解で~す!
これは、ファゴットの1stが演奏している譜面です。
そう、1stです。
こういう書き方をしているということは、2ndの演奏している何かがある…ということですよね?
想像つきますか?
私は、スコアを見たときに衝撃を受けました。
スコアを見てから聴き直すと、あー確かに聞こえるかも。いや、そこそこ主張して聴こえる!と思いました。
ヒントは、お茶の冒頭は「メジャーに聞こえるか?」「マイナーに聞こえるか?」です。
誤解を恐れずに言えば、「明るく聴こえるか?」「暗く聴こえるか?」と言ってもいいでしょう。
そう、メジャーかマイナーかと問われると、当時も、判断がついていたはずなんです。
試しに、上の譜面とコントラバスのピチカート(これは、1,3拍にファゴットの低い方の音Bbの音を演奏しています)だけをピアノで弾いてみても、なにか物足りない感じがしますよね?出来る方は試してみてくださいね!
クイズの正解「ローインターバルリミットを超える常識を覆す配置!?」
はい、大分勿体ぶりましたが、正解を記してみたいと思います。
これだ!
そうなんです、2ndはこの赤い音符を演奏しています。なんと、1stの音符の間を縫うように2ndはDの音を演奏しているのです。
Bbメジャーのコードが聴こえるんですね。
まさか、こんなことを演奏しているなんて、当時は夢にも思いませんでした。
と言いますのも、この配置とてもイレギュラーなんです。
ピアノを演奏される方はなんとなく思い当たると思うのですが、左手で低い方を演奏する場合は、オクターブか単音、または五度を演奏することが多い印象がないでしょうか?
時々、ベートーベンの悲愴の最初みたいな例外があったりしますが、基本的に低い方の音は密集させて配置させません。
ローインターバルリミットという言葉がありまして、2つの音を同時に慣らすときに、低音に行けばいくほど近づけて配置すると濁って聴こるようになりその限界を意味するものです。
で、この中国の踊りの配置は普通に考えるとその限界を超えてるんですね。
ちなみに、5小節は「F,DとD,Bb」から「F,EbとC,Bb」となり、もっと近づく…
だもん、びっくりしますわ。
常識を覆すのは経験か?センスか?天才ゆえか!?
だからといって、不快な響きになるわけでもなく(おそらく、基音が弱いというファゴットの音色の特性を利用したのではないかと思われます)、体感的に熟知して書いたであろう、チャイコフスキーさま、すごい…と思います。
チャイコフスキーのスコアを見てみると異常な現象のオンパレードです。ほんと引き出しが広がりますよ!(しかし、くるみ割り人形のスコアは異常だから、安易に真似しちゃいけないよと、釘をさされたことがあります…)
名曲のスコアから学んでみよう
オーケストレーションって作曲や編曲をするにあたって、とても大事なことだと思います。POPSでも半分はMixがやることではあるかもしれないけれども、音色要素と楽曲の雰囲気をマッチさせるのは必須ですよね?
以下、自戒をほんとーに込めてなのですが、オーケストラや吹奏楽の場合は、曲の素材が良くてもオーケストレーションが悪いと意図した響きにならない危険があります。
これが原因で、ダメな曲のレッテルを貼られる可能性もあります。
オーケストレーションが良ければ、平凡な素材でもキラキラ聞かせられる楽曲にさえなりえます。
本当は実演で試してみるのが一番いいのですが、それはなかなかハードルが高いですよね。
もはや、口を酸っぱくして、言われていることであるとは思いますが、過去の名曲たちのスコアを見て勉強するのがお勧めです。
しかし、勉強…と思うと腰が重いあなたには…「宝探し!ゲーム」みたいな感覚で、覗いてみることから始めて見てはいかがでしょうか?
例えば、今回の「お茶」以外にも、「えっ!?この曲アウフタクトだったの?」みたいな曲があったり「なんだこの調性を無視した配置は?ええぇぇ、でもそんな風に聞こえない…(某ラベルの曲)」があったり、「だまされたぁ!」と脳が悦ぶ体験がたくさんできますよ!
「オーケストレーションなんてしないよ」って方にも、スコアを見るのはお勧めですよ。単純に面白いです。また、演奏する人にとっては、楽譜を俯瞰することはとても大事です。他の楽器がやっていることを理解して初めて己の役割というものがわかるというものではありませんか?
是非、ポケットスコアを入手して、見ながら聞くの楽しいですよ!
ISMLPを利用する手もありますが、好きな曲は購入がお勧めです。
こちらは一般的な組曲のスコア
チャイコフスキー:組曲《くるみ割り人形》 作品71a (zen-on score)
- 作者: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(作曲),藤原順(解説),藤原順
- 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
- 発売日: 2018/09/15
- メディア: 楽譜
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こちら、私が持っているくるみ割り人形全曲のスコアです。
チャイコフスキー: バレエ音楽 「くるみ割り人形」 Op.71/ドーヴァー社全曲版/大型スコア
- 出版社/メーカー: ドーヴァー社
- 発売日: 2009/11/01
- メディア: 楽譜
- この商品を含むブログを見る
これ、大型スコアでかさばるのですが、内容を考えると破格です。
正直、くるみ割り人形は組曲に入っていない楽曲に宝物が一杯紛れている印象なので、(戦闘シーンの音楽とか、クリスマスツリーが大きくなるシーンの曲とか、雪片のワルツとか、2幕の最初の2曲とか 、終幕のワルツとか)もっていて損はないかと思われます!
ローインターバルリミットを引き起こす倍音と差音?
ちなみに、このローインターバルリミットを引き起こす原因ですが、これは楽音の持つ倍音のせいであると考えられているそうです。
低い方で音を重ねて配置すると、ちょうど人間にとって聞こえやすい音域で音のぶつかりが発生するから、だそうです。
個人的には、これに加えて、差音の効果もあるのではないかと推察しています。
差音とは 2つ以上の音の振動数の「差」にあたる音が聴こえる現象
差音とはある2つ以上の音が同時に鳴るときに、その差の振動数を持つ音が聴こえる現象。これは物理的には鳴っておらず、人間の脳が作り出しているものなんだそうです。たとえば、300khzと200khzの音が同時に鳴っている場合、脳内では100khzの音が聴こえます。
この現象が起きていると思しき箇所を自作で見つけたので、貼り付けてみます。
これの4:28くらい。
のところなのですが、TimpaniのFとチューバのBbの差音で、チューバの一オクターブしたのBbが聴こえます。(少なくとも自分には聴こえます)
ちなみに、
純正律の完全五度音程である2音は、上の音の周波数=下の音の周波数×1.5です。
下の音の周波数=aとした場合
1.5a - a = 0.5a(aより小さいので左辺の差音はaより低い)
完全八度音程(1オクターブ)である2音は、上の音の周波数=下の音の周波数×2です。
下の音の周波数=a
2a - a = a(aと同じなので左辺の差音はaと同等)
なので、完全五度音程の2音が同時に鳴る場合、下の音の1オクターブ下の音が差音となります。
差音と下の音の差音は差音に等しいので、この下の音はありません。
下の音の周波数=a
差音の周波数=0.5a
a - 0.5a = 0.5a
倍音と差音についてのこぼれ話
倍音とは(誤解を恐れずに言えば)今演奏している音と同時に鳴っている整数倍の音を差します。そう、楽器の音とは特定の音だけ鳴っているのではないのです!楽器の音色を構成する要素だそうで、基音よりも倍音の方が強い楽器はたくさん存在します。
オーボエなんて、チューナーでBbの音を取ろうとしているのにFが反応したことはありませんか?これは、第3倍音をとらえてしまっている可能性があります。
この倍音が強いのに基音が鳴っていると脳が認識するという現象も、差音の作用なのではないでしょうか。
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