自作曲2曲が、愛知県吹奏楽連盟主催のニュースタイル・ソロコンテストの課題曲になったことをお知らせしました。
一応作者でございますので、この曲のペダリングについてちょっと書いてみようかなと思いました。もしかしたらこれを弾くことになる方もいらっしゃるかもしれませんし…
また、一作曲者のペダリングに関する解釈として読んでいただいてもよいかもしれません。
あくまで、ソロそのものに対する演奏の言及ではなく、伴奏部分のしかもペダルについてです、おそらく一般的であろう事象に沿って書いてみます。
ニュースタイル・ソロコンテスト 課題曲「思い出の回廊」のペダリングについて
ピアノのペダルについて
ピアノはモデルによって2本~3本ペダルが搭載されています。
こちらの記事にちらっと書いてあります。
この中でどのピアノにも搭載されており、最も大切で最も基本的なペダルであるダンパーペダルについて言及します。
使用するのはダンパーペダルのみ
ダンパーペダルは簡単に言うと、弦を開放して音を保持するものと思ってください。一番右側のペダルです。
ピアノを習っていなくとも、このペダルを踏んで遊んだことのある人はきっといるのではないでしょうか。
詳しくは上のリンクのダンパーペダルの節をご覧ください。
「思い出の回廊」においては、ダンパーペダルのみの使用を想定して書いています。ただし、奏者の裁量で必要と思う部分にその他のペダルを使うことを妨げるものではありません。
ペダリングとしては、基本的なことを押させていただければ問題ありません。
「ペダル記号がない=ペダルを使わない」とは限らない
一般的な曲にも当てはまりますが、ペダルを使うべきシーンにすべて指示が書いてあるとは限りません。編集がなされた市販の譜面には書き込まれていることも多くありますが、作曲者本人の自筆譜には書かれていないこともたくさんあります。
また、合唱の伴奏譜面などを見ても、書かれていないことがあります。
ここで注意しなければいけないのは、「ペダル記号が書かれていない=ペダルが不要であるとは限らない」ということです。
音型や慣習で踏んだ方がよいと考えられる場合も多くあります。
ちょっとずるいですが…細かいことは奏者の裁量に任せたいから書かないというケースもあります。
楽器の個性によって、もしかしたら会場によって、ペダリングが変わるケースがあるかもしれません。残響が長い楽器だったら…逆に短い楽器だったら…ホールがデッドだったら…
ちょっと脱線しますが、時代によって想定されている残響や響きが異なる可能性があり、作曲者の意図を読み取ろうとした場合に手心が必要になるケースもあるかもしれません。
気になる方は下記記事の「昔のピアノは残響が短かくクリアな響きがした」の節をご覧ください。
また、気を付けなければならないことはもう一つあります。
楽譜上にペダル記号が見られたとしても「すべて書かれているとは限らない」ということです。
例えば、「慣習に従えば踏みかえそうな部分にも関わらず、作曲の意図としては踏みなおしてほしくない」といった場合などにおいては、このようなケースが考えられます。
ちなみに、本日のテーマ「思い出の回廊」はこのケースです。すなわち、すべて書かれているとは限らない。楽譜上にペダル記号は書かれているが、それは必要なものの一部であるということです。
では、これより具体的に書いてみようと思います。
思い出の回廊のペダリングについて
楽譜の著作権は出版社様に管理していただいてますので、差しさわりのない範囲で記述いたします。楽譜や図解はありませんがご容赦ください。
期間限定で無料ダウンロード可能です。
また、音源から推測もできるかもしれません。
合わせてご確認ください。
この曲に限りませんが、ダンパーペダルを踏むときに一番大切なのは「濁らせすぎないこと」です。意図した濁りは別ですが、そうでない場合、これは鉄則になります。
濁りやすいのは「低音に非和声音を含む動きがある場合」です。なので、こういうポイントは要注意!逆に高音の場合はさほどシビアになる必要はないということになります。
では、次から具体的に見ていただければと思います。
いろんな踏み方のある冒頭
イントロ、テーマが始まる前までについて。4小節間あります。ここに関してはペダルを全く利用しなくてもよいかもしれません。
ただ、自分の場合は結構踏んでます。
最初2小節間に関しては、コードの切り替わり毎に踏むイメージ。1小節目ならば、2拍、3拍、4拍を弾いた後。2小節目は踏みっぱなし。といった感じ。
3小節目は3,4拍は踏まない。
4小節目は3拍目でちょっと踏む。
といった感じです。
響きを豊かにしたい気持ちもありますが、レガートにする補助としても使っています。(もしかしたら、こんな使い方したら怒られたりするのでしょうか???)
特に4小節目3拍については、3拍目と4拍目のレガート補助として使ってます。
踏む場所と踏まない場所の分かれる主部
5小節目~20小節目にかけてですね。こちらについては、レガートの書いてあるところについては、若干使っています。しかし、踏みっぱなしにするような使い方ではなく細かいスパンで踏み分けています。
踏みなおすポイントは2点かなと思っています。
- 和音の変わり目
- ベースの音の変わり目
1.については、言わずもがな、常識かなと思います。2.についてはどうでしょうか?もしかしたら意識していない方もいるかなとも思います。2.については必須とは思いませんが、和音が変わらない場合でも2.のケースにおいては踏みなおした方がいいケースも多いように思います。理由としては「ベースラインがはっきり聞き取れる必要があるから」です。6,8小節目が該当するかなと思います。完全に踏みなおす必要はないかもしれませんが、楽器のコンディションに応じてベースラインが聞き取れる程度にはすべきかと思います。
悩ましいブリッジ
21小節からのブリッジについては、とても悩ましいです。ペダルを踏まないで上手く弾ける方は踏まないほうがいいように思います。といいますのも、左手の三連符が半音で動くのでダンパーを弦から完全に離してしまうと、とてつもなく音が濁ってしまうからです。
かといって、左手の1,2で3連符を弾きながら、2,4拍においては5の指で打ち込みをしなければなりません。本当に手の小さい人には結構大変かも…
ここを滑らかに弾くのはかなり技量が必要かもしれません。
どうしてもでこぼこしてしまうという方は、濁りすぎない程度にうっすら踏んでもいいかもしれません。
テンポアップしたところは動きが聞こえるように
29小節目~、2分の2拍子になって、テンポアップしたところですが、ここも悩ましいですね。ペダルを使うにしても、偶数小節右手に八分音符がありますので、その動きがぐちゃぐちゃにならない程度には抑えるべきかと思います。
ただし、41、42小節のようなベースが本当に1拍しか保てないような場合は、少し踏んだ方がいいかもしれません。この小節については動きがあるのが3,4拍に限定されますので、それまでは強めに3,4拍は軽めにといった形がよいかと思います。
43、44小節が一番大切なところです。
43小節冒頭で踏むのは良いとして、踏みかえるタイミングをどうするかというと、44小節の2拍目です。すなわちGsus4のコードがが解決してGになったところで踏みかえるということになります。
再現部はしっかり、しかし、濁らせすぎないように
53小節からの部分です。某人に「大地讃頌の部分だね」と言われたところです。確かに、右手の音系が似てますね(苦笑)
ここの難しいところは、左手の対旋律です。
左手でベースと対旋律の二つを同時にこなす必要がありますが、これはまさに「低音で非和声音を含む動きのある場合」で、ペダリングを誤るととても濁りやすい部分になります。
では、どうするか。非和声音を含む部分と含まない部分でペダリングを変えるのがよいかと思います。
53,55小節の3拍4拍目のような非和声音を含む部分はペダルは踏まないかごく浅く、こまめに踏みかえる。この小節のそれ以外の部分や54,56小節に関しては、コードに応じてちゃんとペダルを踏む。といった形がよいかと思います。
この部分の鬼門は、57,58の1,2拍目で、53、55小節をさらに複雑にしたものです。ここについては踏まずにレガートになるように気を付けるのがよいでしょう。
中間部は踏まないか本当にうっすら
59(正確には61)から始まる中間部ですが、ここに関しては3連符の音型を見せるために、踏まないか、本当にうっすら必要なところでちょこっとだけ踏むの様にしたほうがよいかと思います。
(私は、ちょっとズルして踏んでますが…)
ピアノの左手がソロの追っかけをする71小節~のパターンは本当に踏まないほうがよいでしょう。
それはそうと、3連符の連打って疲れますよね。こんなの書いたやつ誰だ???
トレモロ部分は響きを豊かに
86小節~ 同じく、某氏に「ホーンテッドマンション」といわれた部分ですが、ここについては、ffの指定があることとこの曲中で一番切迫した盛り上がった雰囲気を持つ部分なので、とにかく響きが貧弱にならない様にしましょう。
個人的には踏んだ方が良い効果がでるのではと思います。というか、踏まないとみすぼらしい感じになってしまいます。すくなくとも私が弾くと…
コードの切れ目で踏みかえるのだけはお忘れなく。
脱線しますが、この部分は交響楽的だなと思います。オーケストラであれば、ロングトーンの管楽器と、分散和音の高弦、トレモロのベースとティンパニといった形になるのかなと。
再現部は豪華に
103小節から再現部になるわけですが、106、107小節で最後の見せ場的な感じになります。ここについては、左手のベースが切り替わるごとにペダルを踏みかえるのがよいかと思います。
ここのベースは2分音符で書いてありますし、ペダルを使わないとこの通りの演奏は不可能ですね…
数少ないペダル記号のある大ラス
さて、ここまで楽譜上にはペダル記号が1つも出てこなかったのにお気づきでしょうか?
はい、ここまでは言ってしまえば、奏者の裁量に任せた部分と言えます。書くのが面倒くさいというのもありますが、慣例に従って演奏してもらえば大体思った通りの解釈になる部分とでも申しましょうか。または、ここに書いたのと異なった解釈をする方もいらっしゃるかもしれませんが、それも許容している部分とも言えるかもしれません。
しかし、ここからは違います。108小節からは、この曲を閉じる部分になるわけですが、この楽曲で唯一ペダル記号の指示のある部分になります。
さて、108小節冒頭のペダル記号ですが、なんと4小節間踏みっぱなしです。
慣例に従えばコードが変わるたびに踏みかえなければなりません。しかし、ここはそうしてほしくないのでこのような書き方になっています。
といいますのも、左手の最低音域のBbの音が細切れになってほしくないんですね。
ここについては、テンポが遅いことと音が濁るのが中音域以上ということで、このような書き方にしています。
また、この部分のコードについては、保続音Bbの上で揺らいでいるだけでBbの和音の部分であると解釈することも可能かと思います。
112と113も同じような感じです。ペダル記号がなければ113小節の4拍目は踏みかえる
方も多いかと思いますが、あくまでEbの和音が鳴っている中の「遊び」としてとらえてほしいので、踏みかえはありません。
これと逆のことが書かれているのが、114、115小節です。ここについては、曲終わりのコードをはっきり演奏してほしいので、踏み分けの指示があります。(Bb7ではないため終止感の薄いコード進行ではありますが)114小節4拍裏のベースの音が”C"ではなく"Bb"であるというのも、その意思の表れです。
という感じですね。
基本に忠実に最後だけ響きを不思議な感じに
まとめるとこのようになります。この曲に関してはペダル記号のない部分については、基本を忠実に守ってください。
なお、これは一解釈に過ぎませんので、この通りにしろというわけではありません。ピアノの先生から別の意見を言われることもあると思います。その場合はきちっと説明してくれると思いますので、納得して取り組んでみてください。
はぁ。この記事がお役に立つことがあればいいんだけど…
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