おお、いいネタを見つけた、きっとスラスラ書けるに違いないなんて思ったのが間違いでした。
ものすごーく考えさせられることが多くて、慎重になりました。まだまだなりきれてもいない。もっともっと考察が必要だなとも思っております。加筆訂正があるかもかも…
とりあえず、2019/8/14時点の考えということで、書いてみます。
吹奏楽曲!? ゾルタン・コダーイ作曲 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」より「ウィーンの音楽時計」
簡単な楽曲解説
吹奏楽編曲もされている楽曲で、吹奏楽経験者でご存じの方もいるでしょう。コダーイの作品としては、コンクールなどでよく演奏されるハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲の方が有名かもしれません。私は良く知りませんが(爆)
この「ハーリ・ヤーノシュ」はもともとはオペラ作品として作られたものを6曲からなる演奏会用組曲として再編したものです。キャラクターの異なった、そして立った楽曲からなっておりまして、1つ1つは3,4分と短いもので、全曲でも30分しないものですので、ご存じない方も聞いてみてください。面白いと思います。鍵盤楽器が担当するポリリズムが癖になります。私は1,6曲目も好きです。
この「ウィーンの音楽時計」は子供向けのCDにも入っているような楽曲で、つくりは比較的単純ではありますが、煌びやかな音響を楽しめる楽曲です。
フルオーケストラの組曲中の吹奏楽曲?
この組曲なのですが、6曲中2曲も弦楽器が完全に黙る曲があります。第二曲である、この「ウィーンの音楽時計」と第四曲である「戦争とナポレオンの敗北」です。しかし、この二曲もオーケストレーションが全く異なるのですが…
今回取り上げます、「ウィーンの音楽時計」は弦楽器が完全に黙ることに加え、主に低音を担当する楽器も黙ります。とはいいつつ、一部においてヘ音記号の下加線のEbなどの低音が出てきます。
豊富な打楽器やピアノ、チェレスタなどの楽器を伴いまして、管楽器の編成はこんな風になっています。
- 1本のピッコロ
- 2本のフルート
- 2本のオーボエ
- 2本のクラリネット in Bb
- 3本のホルン in F
- 3本のトランペット in C
特殊な状況ではありますが、見事な吹奏楽曲と言えるのではないでしょうか。
ついでに、低音を使わないオーケストレーションというのも面白く、勉強になります。ちなみに、低音が無いからといって、ベースが無いとは限りません。
ということで、是非スコアを眺めながら、聞き比べをしていただきたいなと思います。
動画聞き比べ
演奏者によってどれだけ違って聴こえるのか聞き比べてみましょう。
奏者の力量によって全然聴こえ方が異なります。バンドの各個人の奏者のレベルによって、バランスが違って聴こえると言うことは往々にしてあります。
あの演奏では聴こえない音がこの演奏では聴こえるということももちろんあります。これは、ライブ録音でないCDにおいても同様です。
力量による違いだけならず、指揮者の好みや、バンドのバランス感覚によって聴こえ方が異なるということもよーくあります。ちなみに、聴こえるから上手いとも限りません。上手な奏者は出すところと弾くところをわきまえ、本当に一瞬ですっと変化させます
一つ注意点です。録音した場所によって聴こえ方が違うことは踏まえて聴いてみてください。
ホールでのリハーサルを聞いたことがある方は、同じホールでも、例えば二階席で聴くのと一階席で聴くのが違うことや、上手側で聴くのと下手側で聴くのが違うことはお分かりいただけると思います。(したことない人は是非やってみてくださいね)
音源を聞くときは、「あぁこうやって聴こえるんだ」と思うのでなく、条件を踏まえて調整しつつ聞くことをお勧めします。
また、自信の頭の中で鳴っている音楽を現実に近づけるためには、「よい生の演奏」をたくさん聞くことがもっとも大切で、一番の近道であることを付け加えます。
いろんなサンプルを蓄えると自分の引き出しが増えますよ。
今回は、とりあえず机上でやってみましょうということで…
Malaysian Philharmonic Orchestraさんの演奏
録音の音量レベルが低くて、ちょっと聞きづらいかもしれません。が、しかし、この音源には大きな価値があると思います。
というのも、おそらく音響関係の調整をしていないからです。
市販のCDというのは、聞き映えするように、マイクを複数配置して、特定の帯域や特定の楽器の音量を調整したり、楽器の音を左右に振り分けて聴こえやすくしたりしています。そのため、ライブでの聴こえ方とは結構違ってしまったりします。
その点、ライブ録音は実際にホールで聴いたものに近いものになっている可能性が高いです。
ということは、オーケストレーションの実証には大変に役立つ資料であると言えるでしょう。(本当は、どんどん生で聴いてみましょう)
例えば、この楽曲をスコアを観ながら眺めるのも意味があります。「あぁ、この音は案外聞こえないんだな…」とか、逆に「え!?こんなに聞こえるの?」とか「ユニゾンの音はこんな風になるんだ!」とか。
そのほかにも、前後の曲と聞き比べてみて、音量の違いを体感してみるのも面白いと思います。第一曲や第六曲はフルオーケストラの楽曲で、大音量の場面もあります。
Frankfurt Radio Symphony Orchestraさんの演奏
こちらの方が音量が調整してあって、聞き取りやすいかと思います。ライブ録音だとは思いますが、ミックスは調整されているかもしれません。
このオケは木管のユニゾンにおいてオーボエの音色が比較的良く聴こえます。全然悪い意味ではありません。
もう一点、6:15あたりから始まるトランペットとフルートピッコロによるユニゾンの旋律のフルートが比較的よく聴こえます。
どうしても、この音域でトランペットが演奏したら、音色は立って聴こえがちで、多くの録音ではフルートの存在を聞きとるのは結構難しいと思います。実際は聴こえているのでしょうが、倍音成分の関係でフルートはトランペットよりはずっと柔らかい音色ですので…目立ちにくくなります。
それ以外にも、フルートを聴かせるという意味において、邪魔をしている楽器が大量にあります。ほぼすべての楽器が邪魔をしていると言っても過言ではないでしょう。
フルートの高音域は本当によーく聴こえるものなのですが、書法によるというのがよくわかる例ではないでしょうか。
ちなみに、このフルートはフルートが単体で目立つように書かれたものではなく、トランペットの補助の役割をしておりまして、そういう意味では正しいオーケストレーションと言えるでしょう。
Akron Youth Symphonyさんの演奏
これまた実際の聴こえ方とは異なると思われます(録音レベルの問題かも)が、その場面場面を取り出してみたら価値があるかもしれません。
最初の銅鑼なんかは実際の聴こえ方に近いように思います。
いやぁ、この曲本当に難しいと思うのですが、上手いオケはたくさんあるのですね…
ピッコロの超高音域は突き抜けて聴こえるのがよくわかる音源でもあると思います。
スコアを眺めて面白いなーと思った点など
オーケストレーションの観点で、スコアの興味深い点をご紹介してみようと思います。
ちなみに…この楽曲の特にトランペットの難易度は相当だと思われます。上級演奏者向けのオーケストレーションだと言えるでしょう。その点を念頭にご覧ください。
ピッコロは全音域で聴こえやすいわけではない
ある意味当たり前なのですが…以下の譜面をご覧ください。
青で囲ったところです。フルート、オーボエ、クラリネットがユニゾンで、その1オクターブ上をピッコロが演奏しています。人数比6:1です。
この部分はほぼ確実に下のオクターブが聴こえます。
また、赤い部分ですが、この部分はピッコロとフルートのユニゾンですが、明らかにフルートの音量が上回って聴こえます。フルートの強い音域とピッコロの弱い音域の組み合わせなので、当たり前ですよね…
おそらーく、ピッコロのオクターブから、徐々に下がっていくように…という念頭で作ったと思うのですが、6:1ではピッコロはかないません。
そのほかご注目いただきたいのは、この前後です。各楽器がソロで演奏した場合とユニゾンで演奏した場合の音色の変化をお楽しみいただければと思います。書法の参考にもなります。
フルートの低音とホルンの低音の可能性
フルートの低音は基本的に弱く、聞こえづらいものなのですが、書法によっては音色要素として有効に使うことができます。
この譜面のように、2本のフルートで内声を補うために十分に機能させて使うことができます。この部分のフルートはよく聞きとれます。
この部分は、他に、ピアノ、チューブラーベルとチェレスタが鳴っておりますことを付け加えます。
もう一点、ホルンも見ていただきたいです。吹奏楽のホルンは中音域から高音域にかけてばかり使われる印象があります。低音を担当する楽器が多いため、不要とも考えられます。また、ホルンは低音を出すのが難しいから…というのもあるでしょう。
でも、薄ーいベースにはとても適しています。注意点としてこの音域で強烈な音ももちろん出せることを付け加えます。
このホルンの譜面を実音で記すと、ヘ音記号第二間のC→第一間のAb→下第一線のEb*1となります。
トランペットの低音はやはり聞き取りづらい
赤で囲ったところですが、3番トランペットのソロです。旋律とも絡むし、1,2番トランペットもからむしで、かなり大事な役割です。でも、聞こえづらいんです…
1,2番トランペットが強く聴こえがち…3番が動いているときに、1,2番が伸ばしているのも影響しています。(短い音は弱く聴こえがち)
結構頑張らないと対等にfでは聴こえません…
ちなみに、少し脱線なのですが、トランペットの書法として学ぶべき点もあります。1,2番を組にして、3番でソロを担当させるという点。
トランペット全体で同じことをさせる必要はないし、3番に美味しいところを持ってきてももちろんいいのです。奏者毎のちょっとした音色の違いを期待していることだってありえます。
フルートとトランペットのオクターブユニゾン、オーボエの伴奏
まず、赤いところをご覧ください。この図はこの前の図のすぐ後の譜面です。フルートとトランペットのオクターブユニゾンがあります。これ、バランスを意識して演奏すると対等に、また面白い音色になります。
柔らかく演奏されたトランペットの音色の可能性を知っていただきたいです。
ここを仮にフルートのオクターブユニゾンにしたら、下のパートが完全に負け、このようなバランスでは絶対に聞えません。でも、それももちろんありです。
トランペットの代わりにオーボエを持ってくると、フルートが聴こえやすくなったりオーボエが聴こえやすくなったり凸凹します。(オーボエの低音は強く聴こえがちです)でも、この組み合わせも良好ですし、よく見られる組み合わせでもあります。
トランペットの代わりにクラリネットは良好ですが、面白さという点においては、一歩劣るかもしれません。また、発音の近さという意味においては、リード楽器よりもトランペットの方に軍配が上がるかもしれません。リード楽器の発音ははっきりしています。
続いて、青いところ。
私がオーボエを2本の組で使いたい理由であったりします。
オーボエもちゃーんと伴奏できるんですよ…いや、別に一本でも伴奏書けますけれども、この図のようなものは書けないじゃないですか!だーかーらー、オーボエもファゴットも2本の組で使いたいです…
2本の組で使えると可能性が増えます。
書法によってはフルートの高音はあまり聞こえない
これより前に触れた点です。
赤いところにご注目ください。1stフルートのパートは比較的聴こえやすい音域です。この図の3小節目の高いBbなんかは、とてもよく聴こえる音です。
が、この部分においては、さほど聴こえません。
ほぼ、すべての楽器がフルートが前面に出ることを妨げていると言っても過言ではないでしょう。
ピアノとチェレスタがフルートの音域を取り囲むように、飾りを担当しておりますし、行ってしまえば、オーボエやクラリネット、ホルンの倍音すら聞こえにくくしているように思います。
しかし、これだけだったら、聴こえているでしょう。
やっぱり、一番フルートを聞こえにくくさせているのは、1stトランペットでしょう。1stトランペットがこの高い音域で輝かしく旋律を演奏したら…聞こえにくくなりますよね…この1stトランペットが無かったら、もう少し聴こえるでしょう。
でも、ここはフルートを聴かせるための場所ではないので、この書法で正しいのです。
ちなみに、もしも、ピッコロがもう一オクターブ高い音域を担当していたら、また状況が変わったであろうことを付け加えます。
是非スコアを読んでみていただきたい
面白いところはここで書いたところ以外にもたくさんあります。それは、みなさんが実際に見て、聞いて感じ取っていただきたいなと思います。
コダーイの作品は日本においてはパブリックドメインになりましたので、IMSLPから入手できます。
でも、ポケットスコアを持っていた方が便利です。簡単に全体を見渡せますし!
私はこれの版違いを持っています。(私が持っているやつは、「コダーイ」表記ではなく、「ゾルタン コダーイ」表記になっております)
スコアを見ながら楽曲を聞くのは楽しいですよ!さぁ、目覚めましょう。
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吹奏楽のオーケストレーションについて考察した記事。オーケストレーションを知ることは演奏に役立ちます。
*1:古い書法と考えられます。in Fの記音の下第三間のシ♭で実音Eb2を意味することもあれば、in Fの記音の第二線のシ♭で実音Eb2を意味することもあります。