クラシック作編曲家 田丸和弥の実践・実体験・実験・音楽日記

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《そりすべり》はなぜ名曲なのか――ルロイ・アンダーソンの和声・構成・編曲を分析

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今回はPD作品ではありませんので、譜例なしですが、行けるところまで行ってみよう!ということでやってみます。

軽快で親しみやすい《そりすべり》は、実は高度な和声と巧妙な転調でできており、軽く思われがちなその実態は恐ろしいほどに洗練されている。

そんな世界を少しご紹介してみましょう。

 

《そりすべり》はなぜ名曲なのか――ルロイ・アンダーソンの和声・構成・編曲を分析

 

 

出会い

小学校高学年か中学校くらいのときだったと思います。

母の車にカセットテープをいくつか入れており、自分が好きなものも含まれていたのですが、その中に入っておりました。

おそらく子供向けの楽曲(クラシック中心)という扱いだったと思います。

アンダーソンの楽曲はクラシックとはちょっと異なるジャンルだとは思うのですが、ただ似た要素は持っていて、というかある程度その系譜は継いでいてというような印象で、それで入っておりました。

その後、中学の部活で吹奏楽版に触れることになり、それからだんだん好きになっていった記憶があります。

なお、グレードは高くない設定でしたが、割と曲者な楽曲で、決して簡単ではないと思われます…

 

音源

YOUTUBEにアップされているものを借用させていただきました。

オケ版

www.youtube.com

吹奏楽版

いくつか版があるとの噂ですが、よく演奏されるのはこれではないでしょうか?私が中学校の時にやったのも多分これです。

www.youtube.com

後述の通り、太鼓とシンバルが入るのが好きではないのですが、このくらい節制されていると素敵かも!

 

あと、クラリネットの高音が吠えるのも品がなくて好きでないのですが、この演奏は本当そういう意味でもよいです。

音量と吹奏楽で弱い高音の芯のようなものは欲しいですが、それは吠えるのではなくて、芯はありつつも節制されたものであるべきだと個人的には思っています。

 


基本情報

主調:変ロ長調(オーケストラも吹奏楽アレンジも同一)

拍子:2分の2拍子

 

 

構成

以下のような構成です。

 

序奏 - A - B - ブリッジ1(序奏のモチーフ) ‐ A' -  ブリッジ2 - C - ブリッジ3(序奏のアレンジ)- A''(前後半でアレンジが変わる) - B' - ブリッジ1(序奏のモチーフ)ほぼまんま - A''' - Coda

 

ABACABAという字だけ並べるとロンド形式のようにも見えますが、Bが相対的に挿入句的である点を考慮すると、三部形式に近いのかなと思います。

 

興味深い点ピックアップ

全般的に和音が凝っている

本当に全曲を通してなのですが、いわゆる不協和音だらけの楽曲なのです。非常に和声的に作られていて、(ほとんどの場所で)調性がはっきりと認識できる曲にも関わらず、7音以上の音が付加されているところが非常に多いです。

B♭ major(♭2つの長調)の楽曲で、冒頭もわかりやすい属音がベースに来るのですが、FやF7やではなくて、Fsus4 9(合っているのか不明ですが?...F, C, G, B♭, E♭の和音で成り立っています。Fの上にE♭の和音が鳴っているようにも思えますし、もっと分析するとG, B♭, E♭の音はFの和音の倚和音とも思えます。というのも、2小節単位でこの和音とFの和音を繰り返すので、Fの和音が変異しているともとらえられる)で始まるのもなかなかエキセントリックだし、アンダーソンにはありがちな気もしますが、主部が始まったAの部分の和音がB♭M7というのもなかなかすごいです。

 

各部解説

構成にそって少し掘り下げてみようかと思います。

主題「A」

この楽曲の主なメロディの部分です。おおよそ4回現れますが、管弦楽法がかわったりアレンジがなされたりと面白く変化していきます。

 

A:基本主題(提示)

前半後半に分かれています。前半は1st ヴァイオリンとクラリネットの旋律、後半はこれにオーボエが追加されます。(吹奏楽版はこれのヴァイオリンがないアレンジで、後半はフルートとピッコロとグロッケンもたされているよう)

チェロおよび1st ファゴット(吹奏楽版ではユーフォニアム(サックスの一部もか?))が対旋律(とまでは言えないが…オスティナート的なライン)を演奏します。つなぎ部分ではトロンボーンが追加される。

 

A':華やかな拡大版

やや華やかなアレンジになり、1st ヴァイオリンがオクターブ上がり、3本のトランペットがハモリを伴ってメロディを演奏します。(吹奏楽版はこれのヴァイオリンがないアレンジで、上のオクターブが不在です。サックスもトランペットを補強していたかも?)。

華やかさを増すアレンジとしてもう何点かあり

  • 木管がトリルを伴った飾りを担当
  • 主に1拍目のベースラインが下に追加される
  • (たしか吹奏楽版のみ)太鼓系が追加(ただ、このアレンジは私は好みませんw)
  • コントラバスがアルコに!

などがほどこされています。

 

A'':ジャズ風変奏

Jazzっぽいアレンジになり、旋律のアレンジも対旋律の絡みも変化がでます。また、前半と後半でさらに変わります。旋律担当はA'と基本一緒ですが、吹奏楽版の後半では対旋律が消えた影響か、ユーフォニアムがトランペット1stの1オクターブ下を補強します。

後半の旋律のリズムは一部慣れるまで読み取るのが難しく、中学生のころは苦戦した思い出ががあります。

木管はA'ではトリルでしたが、この部分では、装飾音符を伴う後打ちに変更。

後半はベースラインが半音進行を伴う上昇音型に変わり、ベースラインはオクターブに変更されます。

ここもコントラバスはアルコです。ベースラインの特徴を踏まえれば当然ともいえるかもしれません。

 

A''':収束する回帰

Aとほぼ一緒になりますが、前後半で逆転するイメージ。

Aは前半→後半へと楽器が増えていくが、A'''では後半に行くに連れて収束していく。

すなわち前半ではフルートがオクターブ上、Aの後半で入っていたオーボエが前半に登場。A'''の後半においては、フルートとオーボエが抜けてAの前半と同じ構成に。

ちなみに、後半は4小節で尻切れというか、結尾になだれ込む形をとります。

 

BおよびB'

主部に挟まれて2回でてきますがどちらもほぼ同じです。やや伴奏が異なるくらいの違い。

ここの部分の調性はなかなかおもしろいです。

前半がD major後半がC majorとなっています。

なおコード進行としては、II→V→Iなので、前半は(Em7→A7→D)×2、後半はDm7→G7→Cとなっています。

なお、前半が4+4小節ありますが、後半は実は4小節しかなく、ブリッジとも介される部分4小節を含めて4+4となっています。

ブリッジの部分は、Cm→F7→Csus4 7→F7ときて、主部のBb majorにつながる形です。

前半の主調(D)の第三音(F#)を半音下げて、二度下の調(C)のII(Dm)につなげるというのが、なかなか粋ですね。

 

C

この部分は個人的に一番異常だと思う部分で、Jazzのテンションとも解釈できますが、旋律と伴奏で調性が異なっているのでは?とすら思える部分でもあります。

この部分は主にG major(♯1つの長調)で成り立っていますが、最初の旋律音はA(第9音)でハモりの音はF♯、続く部分(5小節目〜)最初の旋律音はF♯(根音から長7度、メジャー7thの音)でハモりはDです。

終わりの部分、前半4小節目が旋律F♯(メジャー7th)、 続く部分8小節目はE(長6度の音)となっています。

 

ちなみに、この部分は転調もすごいことしています。

2回目の直前部分でなんとB major(♯5つの長調)になります。

ただ、本当に転調が巧みで本当に一瞬B majorが顔を出したなと思ったら、見る間に元に戻ってしまうような感じです。

 

A’’の前のブリッジ

この楽曲はとても構成がスマートだなと思っております。
構成が優れているという点や曲の長さから考えても言えると思いますが、この楽曲モチーフはそんなに多くはありません。

そういった意味で、この部分は「あっ、帰ってきた」と思わせる部分でしょう。

 

ただ、一筋縄ではいかないアンダーソン。

 

少しトリックが混じっており、このブリッジもその一つです。

 

このブリッジは序奏の変奏で、序奏をカノンみたいになっております。

そう、冒頭で聞こえた要素が聞こえてくるという点から「帰ってきた」感を与えられるとは思うのですが、ただ帰ってきたんじゃなくて「ちょっと遠いところから帰ってきたよ」と感じられるような構造になっています。

 

そうさせるのは、すなわち調性なのですが…

 

冒頭はB♭の属和音(の変形)で成り立っておりました。

しかしここは前にあたるCの部分がG majorのため、Gの調性(ただG majorには聞こえにくいかも?G majorの属音のDの保続音っぽい箇所に聞こえるかも)のまま始まり、やがてB♭に(というかB♭の属和音のFの保続音っぽい箇所に聞こえるかも)行きつくというようなルートを通ってきます。

これがそのトリックの正体です。

 

この転調なかなか味があります。

 

そう、「何か遠くからやってくる(遠隔調)、なんだろうあれは?はて、でも見覚えがあるような気がする...(序奏と同じモチーフ)」からの、「あ、知ってるやつだ(主調に戻って、モチーフも調性も一致する)」みたいな構造です。

 

 

コーダ

とてもおしゃれな和声です。A'''の続きとして、B♭M7の音が鳴ったと思ったら、次はB7、E、A7、D、G7、C、F7と来て、B♭に戻ります。

しかもこの和声進行の最中、とても魅力的な半音進行があるのです。

 

A(B♭M7およびB7)、G#(E)、G(A7)、F#(D)、F(G7)、E(C)、E♭(F7)、D(B♭)というもの。

 

遠隔調に飛んで、でも見る間に主調に戻ってくる。

 

おやっ?と思わせて、でもあっという間に安心、安定にというスマートさ。

すばらしいですね。

 

オーケストラと吹奏楽の違いの興味深い点

この曲はおそらく原曲はオーケストラの編成だと思うのですが、吹奏楽でもよく演奏されます。よく演奏される版は編曲者の名前があるのかな?(覚えがない。。。)もしないとしたら本人が作ったということなのかもしれませんが、そう考えると割と面白い編曲の違う点があります。

Aの部分の吹奏楽版のサックス

オーケストラ版ではおそらくないアレンジですが、吹奏楽版ではサックスが和音を演奏しているのです。オーケストラ版では、Vn2, Vaなどが後打ちとしてやっていますが拍頭では聞こえない音ですね。これは割と感じのいいアレンジな気もします。

 

Aの後半でのフルート、ピッコロ、グロッケン

吹奏楽版だとAの後半から旋律のオクターブが急激に拡大されます。

オケより派手になるのが早いって感じでしょうか。

 

Bでクラとオーボエが逆転?

オーケストラ版と吹奏楽版でオーボエとクラリネットが逆転するような現象が起きます。

というのも、オーケストラ版では、フルートとオーボエが上のオクターブでクラリネットが下のオクターブを演奏しています。

かたや吹奏楽版では下のオクターブを演奏するのは、オーボエ(と多分3rdクラ)で上のオクターブをフルートとクラリネットが演奏します。

 

これ、音色的にいったら、前者の方がスマートだとは思いますが、ただ、吹奏楽版ではヴァイオリンがない分上の音量を補強しようとするとクラリネットを上に持ってくるというのは割とありな選択かもしれません。

ただ、音色的には優しくはないので、私の好みはオーケストラ版です。

 

A’とA''で太鼓とシンバルが入る

これも何回も書いてますが、吹奏楽版では太鼓とシンバルが入るのですが、オーケストラ版では入らないのです。これはどういう狙いがあったのか(演奏される場の役割に違いがあったのかな?)非常に興味深いです。

 

 

こぼれ話

結構難しいと思いますよこの曲は。。。

吹奏楽部時代、たしかグレードが2.5くらいだった記憶があるのですが、体感としては3.5〜4.0くらいあったのではないかと思われます。

今確認すると2から4まで幅があるようです。

 

難しいと思われるポイントですが…

  • クラリネットの音域が結構高い。

吹奏楽版のBのところでは旋律を担当し(実音E(ファ♯)まで出てくる)

  • 音程の跳躍が多い。

冒頭の旋律ですが、これはクラリネットも難しいですが、トランペットも短いスパンでF-Fのオクターブを行き来する上に、上のFとCの跳躍が割と難しいです。

  • リズムが難しい

Jazzっぽいところの旋律のリズムは案外難しく、うまくできていない音源もかなり見受けられます。プロでも間違っている...

あとは地味ですがCの部分のB majorに一瞬なってからまたG majorに戻る直前の2つの16分音符があるところですが、2分の2で書かれているということを忘れて、倍遅く演奏してしまいがち

  • 臨時記号が多い(遠隔調へ飛ぶことが比較的多い)

途中でも述べましたが、一瞬とは言えどB major(#5)を経由する(しかもたしか臨時記号での表記のため油断しやすい)など、譜読みもそれなりに大変です。

などなどです。

 

なので、気安い曲調とよく聴くということで油断して取り組むと…痛い目にあうかもしれませんね。

 

 

おまけ

アンダーソンの曲に興味を持って買った一枚。

どれもこれも珠玉の作品です!

 

 

 

結論「掘り下げきれない素晴らしい楽曲」

とまぁ、いろいろなことを書いてきましたが、何が言いたいかといいますと、聴いても演奏しても分析しても面白い楽曲だということです。

どうぞ、今までよりもすこーしだけ掘り下げて鑑賞してみたり取り組んでみてはいかがでしょうか!

 

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