個人的に懐かしい曲。
ジェームズ・スウェアリンジェン作曲の「栄光のすべてに」の記事が少し読まれているっぽいことが判明して、せっかくだからもう少し深堀してみようかなと思いまして、取り掛かりました。
というか、前の記事は楽曲の解説的なものは全然何も書いてなかったんですよね。。。苦笑
この記事には、あくまで私個人の見解がかなりのボリュームで含まれますので、「ふーん、そういう考えもあるんだねぇ」くらいで受け止めていただけますと幸いです。
ちなみに、先ほどこっそり書きましたあまり楽曲の分析には役に立つとは言えなそうな関連記事もございます。
気が向いたらどうぞ。
楽曲の基本情報
「栄光のすべてに」の簡単な情報です!
ジェームズ・スウェアリンジェン作曲
アメリカの作曲家でアマチュア向けの比較的平易な楽曲が多い印象です。キャッチ―で親しみやすい、情感のある楽曲が多い印象です。
技術的に平易な楽曲が多い分、構造もわりと単純なものが多いのかなと思います。
簡単でちゃんと聞ける曲を書くのって実はとても難しいんですけどね...
サンドイッチ型の構造 - 複合三部形式
簡単に言うと、早いところ+遅いところ+早いところ(再現)の3つの部分(=三部形式)でできており、その3つの部分が複数のパーツで構成されている(=複合)ということで、この曲は複合三部形式といえるでしょう。
もう少しぶっこみ、より正確な表現を目指すと複合三部形式の外側に序奏のテーマ(このテーマは超重要)で挟み、締め部分を追加しています。
と、最初と最後におまけな部分があるとはいえ、この楽曲は複合三部形式といえるでしょう。(そういう部分があっても、形式はだいたい大筋で解釈して問題ないかと思います。)
また、各部分の調関係からもそうとらえられます。
主部(早いところ)が変ホ長調、中間部(遅いところ)が下属調の変イ長調です。
なお、形式を意識する重要性としては、ストーリーを理解し楽曲の緩急や聞かせ方構築や理解、主体性を持つ助けけになること、ではないかなと思っております。
構造の詳細
これは、あくまで私個人の見解ですし、考え方やその時にとらえ方で微妙に変わることもありますが、大枠は正しいかと思います。
補足で語りたいところを付け加えます。
序奏
- 序奏(1+((2+2)+(2+(1+1+1)+2))):1-12小節
1小節目からドミナントモーションです。すなわちBb7が鳴り響く1小節目から、解決するEbの和音2小節頭。
いきなりドラマティックな展開です。
なお、1小節目の3拍目まではBb単音ですが、4拍裏→2小節目への動きを鑑みてBb7が鳴っていると考えます。
なお、いきなりテクいですが、4拍目頭は倚和音となっています。
倚音についてはこちら参照!
倚音や倚和音は、少し難しい楽典知識ですが、表現豊かな演奏をする上で絶対に避けて通れません。
この楽曲のいわゆる「エモい」ところには、ことごとく使われてますので、重い腰を上げて調べてみるのをお勧めします。
主部
- ブリッジ1(4)*:13-16小節
- A(7+6)*:17-29小節
- ブリッジ2・締め(7)*:30-36小節
- B(8+6):37-50小節
- ブリッジ3(4):51-54小節
- ブリッジ1'(4)*:55-58小節
- A'(7+4)*:59-69小節
- ブリッジ2'・締め(6):70-75小節
- 小結尾((2+2+2+3)+2+2):76-89小節
軽快で楽しい曲調です。歯切れのいい部分と流れるような和声を持っている部分とで、主部の中でも、ABAといった3部形式を持っています。
ところどころ挟まれる変拍子が面白さを生んでいます。
中間部
- ブリッジ4(1):90小節
- C(4+4):91-98小節
- D(4+4):99-106小節
- C'・展開((2+1+1), (2+1)+1):107-114小節:**解釈は色々あり
- D'・展開(2+(1+1)):115-119小節:***なかなか面白い変奏
- 小結尾2(2):120-121小節
一番よくあるパターンではありませんが、二部形式といえるかなと思います。
**だいぶ細かくしています。4+5や4+4+1ととらえても差し支えはないかと思います。
***Dの旋律の一部を反行系にしている。中学生の時は気が付きませんでした。「なんか前にでてきたときと微妙に旋律違わない?」くらいにしか思っていなかった。
再現部(主部)
- ブリッジ3((2+2)+(2+2+2+2)):122-133小節
- ブリッジ1''(4)*:134-137小節
- A''(7+6)*:138-150:再現部で一番豪華な楽器法
- ブリッジ2・締め'(7)*:151-157小節
- B'(8+6):158-171小節:中間部の旋律による対旋律、ポリリズム、6の部分の旋律の変奏はサックスとの干渉を避けたためか?
- ブリッジ1'(4):172-175小節:175小節の4拍目(大きな2拍目)は冒頭のドミナントモーションを再現
A''のところで初めてクラリネットオクターブになり、1stクラリネットが一部を除きフルートの音域を演奏するわけですが、そうすることによって、旋律が抜群に強くなります。クラリネットの高音域は多用するとうるさい印象すら与えかねないと私は思っていますが、このアレンジは実に効果的と考えられます。
B'(8+6)の後半については、サックスとトランペットの声部が交差してしまうことを嫌って旋律をこのように変奏したのかなと思いますが、一番よい回答だったかどうかは一考の余地ありかな。。。
D'の一部もそうだし、冒頭の2小節目のホルンとベースだと、案外平行八度は気にせずに使っている印象です。でもねぇ、冒頭のあのホルンの動き格好いいんだよねぇ。。。
いうて、そこまでポリフォニックなわけでもないし、楽器法の問題であまり気にならないかもしれません。
序奏の再現とコーダ
- 序奏'の再現((2+2)+(2+(1+1)+1)):176-184小節
- 結尾部
小結尾'((2+2+2+3)+2+(4)+8):185-207小節
モダンな響きの箇所が続きます。
ベルトーンを交えながら主に金管が低音から高音へ駆けあがっていくところは、リディア旋法を使っているのかな?主和音の半音上の和音が鳴ってるの格好いいなー。と思ったりします。
主調は「変ホ長調」中間部は「変イ長調」
調性は、吹奏楽曲の序曲に多い中間部が主部の下属調となっています。多くの行進曲の調関係で見られるものとも一致します。
栄光のすべてに、楽曲鑑賞演奏上の注目ポイント
そこまで複雑な曲でもないとは思いますし、それゆえに楽曲を調べてみる導入としてよいかもとも思いますので、個人的に思ったことを徒然と書いていきたいと思います。
ちなみに、この楽曲の一番キーとなる主題は「序奏の主題」です。これが全体を支配しています。
序奏と主部の共通点・関連性 変奏の妙
上でも書きましたが、この曲の前奏の「主題」は楽曲全体を通してのテーマといっても過言ではないような内容となっています。
と申しますのも、主部のメロディは序奏の主題を変形させたものに過ぎないからです。
わりとわかりやすいと思いますが、1小節目4拍目から3小節目までの旋律と16小節から19小節の旋律を見比べてみてください。
そっくりです。
テンポや楽器法(オーケストレーション)が違うため、雰囲気は違っていますが、相互の関係性は自明の理といえるでしょう。
作曲者は「この曲の顔は序奏の旋律なんだよ」と伝えているともいえるのではないでしょうか。
拍子の変更で面白さを演出
関連記事には書いてあるのですが、私はこの曲中2、中3のコンクールで演奏したんでした。ただ、当時、この曲の変拍子(8分の5は初めてみました)にちょっと驚いた記憶があります。
吹奏楽曲ではあまり珍しくないのですが、クラシックピアノをそれなりの期間習っていて楽譜は見慣れていると自負していた人間にとってのこの変拍子は割とインパクトの強いものでした。
で、この拍子の変化なんですが、序奏とほぼ同じ主題のメロディを、ただ繰り返すだけじゃ面白くない、変化を与えて面白さを感じさせよう。といった意図から仕込まれたものなのかなと思います。
演奏する方は躊躇せずノリノリで演奏するのがよいのかなと思います。
さて、以下でこの変拍子の仕組みを簡単に解説しようかなと思います。
重要かどうかは…うーんどうなんでしょうか(苦笑)。
ただ、「へぇ!」と思っていただける可能性はあるのかな?と思っております
拍を削るタイプの拍子変更
曲中での拍子変更は拍を足すタイプと削るタイプがありますが、この曲は例外なく削るタイプといってもよいでしょう。
一番わかりやすいのが、19小節のパターン。
さて、拍を削っていると申し上げましたので、削る前の形があるはず。
ではそれはこの曲に実際に存在するのでしょうか?
答えはイエス。
あります。
それはどこかといいますと…
3小節目です。
察しの言い方はもうお分かりかと思いますが、3小節目の2拍裏を削除し、3拍目と4拍目の四分音符をそれぞれ八分音符に縮めた。というのが正解です。
ちなみに、3小節目が4分の4拍子、17-18小節目*1が4分の2拍子で、3小節目は17-18小節の2倍音符が入ることになります。
これを踏まえると19小節が3小節目の単純な模倣の場合、本来なら4分の2拍子2つ分の音符が入るところ、8分の5拍子1つになっており、八分音符でいうと8個から5個に減らされている上に、なんと2小節が結合して1小節に(実質1小節にカット)されてもいます。
構造の詳細の*を付けた部分は、拍を削ったと考えられる場所です。
もともとはどういう構造だったのかな?と想像してみると面白いかもしれませんね。
演奏上(指導上)気を付けた方がよいこと
以下、私個人の貧弱の楽器経験といちおう作曲家のはしくれとしての見解をかかせていただこうかなと思います。
役に立ったらよいなと思いますが…
クラリネットのブレーク(シ♭とシの連結)近辺について
どんな楽器にも得意なことがあれば、もちろん苦手なこともあります。なんでもできてしまいそうなピアノだって、レガートで弾くのは難しい(多分厳密にはできない)ですし、音量を保ったり増大させることは物理的に不可能です。
吹奏楽のなかで本当に何でもやらされ、ほかの管楽器から嫉妬されるようなppが大の得意なクラリネットにもいろいろ苦手なことがありますが、その一つに五線内のシ♭とシの連携があります。
ただ、ここについてはプロはもちろんマスターしていることと思われます。アマチュアにとってはちょっと難しい可能性が高いといった程度です。
これを説明するのには、いろんなアプローチがありますが、他の楽器だったら、トリルや最高音域、最低音域を演奏するためだけに使うような種類のキーを通常の音域で使わざるを得ないから、なのかなと思います。
そう、左手の人差し指で操作するキー(ラ♭、ラ、シ♭)の部分です。
この特性故に、頻繁に使われる音域の他の楽器でいったらなんて事のないスケールや半音階のつなぎが難しいということがあります。
このせいで、他の楽器のドレミファソラシドでは人差し指は通常穴を開け締めする(またはその役割の一つのキーを操作する)だけ(すなわち指の上下運動のみで左右の運動を伴わない)なのに、クラリネットではそうはいかないのです。
いわゆるクラリーノ音域からは可能です。
...なにか取り留めもなくなってしまい、どう書いていいのか自分でもわからなくなってしまったのでこれくらいにしますが、クラリネットがほぼ円筒形の閉管であること、などによります。
これは、クラリネットの人に克服してもらうのが一番かと思いますが、例えば、演奏会でなどであれば、同じ音域を担当しているほかの楽器(アルトサックスでその場所を発見しています)などに少し頑張ってもらう。などの方法も取れなくはないのかなと思います。
79-80小節とか51,52小節とかね。
フレーズの終わりと開始の理解と再現(表現)を徹底する
これは46小節4拍5拍目の高音木管などに顕著かなと思います。48小節の4拍5拍目の切れ目はわかりやすいと思いますが、これは46小節も同じです。
すなわち、連桁(八分音符より細かい音符が連続したときに、尾がつながっている状態)はフレーズを表現していない(しているときもある)ということに注意が必要です。
スラーもフレーズを表しているわけではない(表しているときもある)ので、要注意ですよ!
フレーズの緩急を意識する(特に和声的な、ドミナントモーションの正確な理解と共有)
あまり音楽理論わからなーい、という方もいらっしゃるかと思いますが、トニック、ドミナントについては、意識は持った方がよいかなと思います。
いわゆる西洋音楽は緊張と弛緩の繰り返しで流れを作っていくもので、トニックは弛緩(というか安定というか)、ドミナントは緊張(というか不安定というか)を作り出す和音で、ものすごく雑にいうと、トニック→ドミナント→ドニック→ドミナント→ドニックと進んでいきます。
なお、たいていの曲は落ち着いた状態で終わるため、ドミナント→ドニックという動きが特に大事ということです。
トニック→ドミナント→トニックの一番わかりやすい例は、お辞儀の和音で、ドミソ→ソシレ(ファ)→ドミソ、これがまさしくトニック→ドミナント→ドニックの動きになります。ドミナントからトニックへの動きをドミナントモーションといいます。
そういう言葉の定義がある=大事なのでわざわざ名前付けした。というように考えてもらえればよいかと思います。
で、たいていの場合ドミナントモーションのかなめは「ベース」です。
この曲でいうと、チューバが一番その役割を担っており、それと同じ動きのパート、ないしチューバがない場合はバスクラ、バリトンサックスなどのパートが主にベースラインを担当しております。
そして、とにかく一番わかりやすいのは、変ホ長調の部分においてはベースがBb→Ebと動くところ、変イ長調の部分においてはベースがAb→Ebと動くところ(要するにソ→ドと動くところ)はかなりの確率でそれを担っていると思って問題ないかと思います。
なぜ、この動きを意識する必要があるかというと、それをわからずにブレスをとってしまったり、音量や音質の強さが減ってしまうと、せっかく書法で緊張と緩和の仕組みをかいてくれているのに台無しにしてしまうから、なんです。
指揮者から「ここでぶつっときらないで」とか「最後までcresc.して、へばらないで」みたいなことを言われることがあったとしたら、これのことを言われている可能性が強いです。
フレーズはスラーで表現している(こともあるけど)のではなくて、和声進行が作っている、前後の和音の関係がつくっているのです。
なお、これはとても気を付けないといけないのですが、「トニックは弛緩するところだからといって音量が控えめになるとは限らない」ということです。
「弛緩の始まる瞬間が一番エネルギーが一番蓄えられている」というケースも往々にしてあります。
こういうところは、何度も楽譜を見て研究する必要があるのかなと思います。
勿論、経験値やもともと持っていた能力などで聴いた感覚で分かってしまう人もたくさんいます。
allargandoはテンポのみに言及した言葉ではない点に注意!
テンポを変化させる指示は色々ありますよね。ritardando, ritenuto, accelerando, stringendo, etc...
allargandoもテンポを変化させる指示の一つですが、実はテンポを変化させる以外の指示も含まれていることはご存じでしょうか?
その意味とは一般的には「だんだん強くする」といわれるもので、物理的な音量に着目すれば大きくしていくととらえてもよいかと思います。
allargandoは拡張していくという意味合いがあります。
速度変化でもritardandoは電車や車が減速していくようなイメージかなと思いますが、allargandoは例えば、何もないところから水が湧き出して、水たまり→池→沼→湖...といったように、だんだん浸食していくような、変化をイメージしたものととらえるとよいかなと思います。面積が小さいうちは、広がる速度が相対的に早く見えるけども、面積が大きくなるにつれてイメージ上は広がる速度は遅くなっていく、そしてどんどん広がっていく。みたいなイメージかなと思います。
ただ、rit.(この曲の場合はritardandoの意味と思われます)にcresc.が書いてあるところも同じじゃないと?とも思えるのですが、スコアを見ますと明確に使い分けているように感じますので、なんらかの差を表現できるとよいのかなと思います。
私見ですが、rit.+cresc.はフレーズ内の起伏の表現、allargandoは次の大きな広がりをもった新しいフレーズに行く前(フレーズのつなぎ)、次の大きな場面転換の部分に使っているのかな?と思います。
テンポが迷子にやりやすい53小節は8分音符をカウントしましょう
52小節目まで(一部符点八分も交じっているとは言えど)八分音符が常になっていたのに、いきなり付点四分音符しか鳴らない(拍が刻まれない)タイミングがやってくるのがここで、演奏者が八分音符をしっかりと刻めていないと崩壊しかねない場所かなと思います。
過去の合奏の記憶をもとに、注意する場所かななのかなと
もちろん、レベルによって全然問題にならないケースも多々ありますが、どうもうまくいかないというときは少し意識してみるといいかもしれません。
こんな曲ですよ
*1:19小節目は拍がカットされていますが、17-18小節はされていないための比較です