数日前に、ゾルタン・コダーイ作曲「ハーリ・ヤーノシュ」組曲の記事を書きました。
その記事を書くにあたって、いろんな音源を聞き、そのあとも余韻に浸って効き続けておりましたら、いろいろ書いてみたいなぁと思うことが出てきました。
今回は、前記事の続きともいえるものです。
アレンジを学習するのは演奏のためにもなるという点もここで触れました。
時々、「作曲が主で、演奏は専門じゃないんです…」という方が演奏をする機会があったりするのですが、驚くほど説得力のある演奏を披露してくださることがあります。技術は本職の演奏家の方には及ばないのにもかかわらずです。
この現象がなぜおきるのか?といえば、それは楽曲を理解して演奏しているからといえるでしょう。曲を作る人間なので、作り手の事を想像して演奏できるわけです。なぜこの楽器にこの役割をさせているか?はもちろん、この旋律の役割は?このカデンツの場合は、こういうことだよねetc...
まるわかりなんです。中には「わかるわかる!こういうのをイメージしたんだよね。でもこれだとダメだね…」なんて恐ろしいことを内心思っている人もいたりするでしょう(いや、大多数かも)。
結局、この楽譜がどういうことをしたいのか?を咀嚼して自分なりに解釈をして演奏しているために、説得力があるのです。
これは、演奏者に応用すべき事象です。
演奏者は作曲者の意図や心理を読み取れるべきです。
そうするには、実際にたくさん書いて、たくさんの失敗やたくさんの成功を積むのがいいのですが、それは難しい…という方も楽器法や和声法を知っているのはイニシアチブになるということです。ジャンル問わずでしょう。すべては応用可能です。
と・く・に!創作(作曲)意識が必要なジャンルにおいては、この感覚は必要ですし、バランス感覚を養うのにも一役買うでしょう。はっきり申し上げますが、バランス感覚はどのジャンルにも必須で、一番大切な感覚だと思います。
ということで、スコアを見て、オーケストレーションを観察してみましょう。
- 演奏とアレンジのためのスコア研究 「ウィーンの音楽時計」を見てみよう
- 音色が聞き取れずともオクターブの内側は大切
- トランペットだって伴奏ができる
- ソロとユニゾンの音色効果
- フレーズの長さに応じた楽器変更
- その他、前述記事を参照していただきたいもの
- 興味を持った楽曲の譜面はくまなく見るべし
演奏とアレンジのためのスコア研究 「ウィーンの音楽時計」を見てみよう
動画
録音レベルなどを考えて、上記記事でご紹介している音源の中から一番バランスがとれている動画を選択いたしました。
音色が聞き取れずともオクターブの内側は大切
冒頭の旋律です。
一番下のオクターブを3本のホルン、下から2番目が2本のオーボエと2本のクラリネット、上から2番目が2本のフルート、一番上がピッコロとなっております。
このオーケストレーションですと、一番下の3本のホルンが一番強く、次いで一番上のピッコロが聴こえると思われます。人によっては違うかも…
音色要素としては、間のフルートとオーボエ・クラリネットは聞き取りづらいかと思いますが、ところが、大切な役割を果たしております。この間の音がないと旋律がスカスカになってしまうのです。あえて、それを味わうオーケストレーションももちろんあります。
聴こえないからといって意味がないわけではないということを念頭に、是非大切に演奏していただきたいと思います。
トランペットだって伴奏ができる
この部分をご覧ください。
音源を聞いていただいてもおわかりかと思いますが、全く違和感がないと思います。普通に、何も考えずに演奏した場合はトランペットが圧倒的に音量で勝ってしまうでしょうが、音量の出ない木管楽器の伴奏の役目も果たせるということがこの例からわかると思います。
拙編のくるみ割り人形の序曲においても、トランペットがベースラインを演奏していたりします。
指揮者はもちろんですが、奏者にもバランス感覚が必要だという実例とも言えるでしょう。ただ、極限の無理をしなくてもできるんです。これができるようなバランス感覚が必要です。
ソロとユニゾンの音色効果
これは、聞いて感じていただきたいです。
まんま、トランペットの伴奏をご紹介した楽譜の部分を聞いていただきたいと思います。
オーボエ、クラリネットのソロとフルート、オーボエ、クラリネットによるユニゾンの音色の違い、およびその価値。高音木管3種のユニゾンの素晴らしい音色。ソロとは全く異なった、新しい音色要素としての可能性。これを是非感じ取って取り入れていただきたいです。
奏者向けに…ユニゾンの音色については、人数比はもちろん影響しますが、それ以上に混合音色が求められているという意識がなければこれは実現できません。奏者の力量および意識が求められていると考えて間違いないでしょう。
フレーズの長さに応じた楽器変更
主にアレンジャー向けの内容です。タイトルが難しくてうまく言えてないのですが、要は意味のある単位で使う楽器を同一にした方が無難であるという事です。
例えばこの部分。
- 1stホルンが旋律を4小節間(この画面に映る前から合わせて)
- 高音木管の旋律が2小節
- オーボエが1小節
- フルートとトランペットが1小節
- クラリネットが2小節
- 1st フルートが8小節(最後2小節は2ndが1オクターブ下で補強)
このように、たとえば、「全部4小節毎に旋律を担当する楽器が変更する」というようなことはなく、フレーズの役割に応じて楽器が巧みに変更されているのがわかるでしょうか?
これは、カラフルなオーケストレーションをするにあたっての肝ともいえる部分であると思います。
また、オーボエ、フルートとトランペット、クラリネットの区画などの呼応関係の作り方も非常に参考になると思います。
その他、前述記事を参照していただきたいもの
- ピッコロの音域別聴こえやすさについて(ただし、聴こえればよい(耳に障ればよい)というわけではない)
- フルートおよびホルンの低音の可能性について
- トランペットの音域別目立ちやすさ
- オーボエの伴奏形
などについては、前述のコダーイの記事をご参照いただきたいです。
興味を持った楽曲の譜面はくまなく見るべし
たとえば、私であれば敬愛するチャイコフスキーのスコアをずっと眺めるのが楽しかったりします。(もしかして、個人差があるのでしょうか…)
たとえばこんなのとか…
でも、このスコアをくまなく見ると言うのはとても価値のある行為であると思います。かたっぱしから見るのは苦痛…でしょう。
でも、大好きな曲だったら、仮に楽譜を読むのが得意でない人でも、行けるはず!行けます!行きましょう!
重ねて申し上げますが、オーケストレーションの知識は演奏にも役立ちます!ので、あまりスコアにアレルギーを起こさず(ト音記号にヘ音記号にさらにはハ音記号に…そして移調楽器にと大変なのはわかるのですが…聞きながら気になったところを見るだけでもいいんですよ!)に見てみていただきたいと思います。
最後に、ウイーンの音楽時計大好き。
ちなみに、原曲をそのまま訳すと音楽時計ではなく、鐘とか機械仕掛けの見たいな意味になるそうです。
音楽時計という訳、嫌いではありません。