この曲もピアノを習っている人であれば、一度は通る楽曲ではないでしょうか?
ベートーヴェンとの出会いはこれです!という方も多いかも?
ベートーヴェン「エリーゼのために」の解析と弾き方
こんな曲 動画
聴いたら、知らない人は少ないのではないのでしょうか?(と思っているけれども、案外そうでもなかったりして…)
小品集の曲の1つという位置づけでして、深刻な内容を持つものでもないので、気安く取り組むことのできる楽曲であると思います。
ただし、ロンド形式のCにあたる部分などは、ベートーヴェンの骨太な感じが出ておりまして、後に取り組むことになる(かもしれない)ソナタなどの片鱗を感じ取れる楽曲でもあるでしょう。
では、曲を見ていきましょう。
基礎情報(拍子、調性、構成など)
8分の3拍子、イ短調、ポコ・モート、ロンド形式の楽曲です。モートは動きをもっての意味です。ポコ(poco)="little"なので、本来は「ほとんど~ない」の意味なのですが、ここにおいてはウン・ポーコ(un poco)="a little"の意味の「(程度が)すこし」にとったほうがいいように思います。
構成についてはシンプルなロンド形式の楽曲です。
A(1-24小節) - B(25-40小節) - A(41-60小節) - C(61-84小節) - A(85-105小節)
AおよびCはイ短調、Bはヘ長調です。
各部解析
では、各部分を少し細かく見ていきましょう。
流れるようなロンド主題
有名な主題ですね。
属音のアウフタクトから始まります。分散和音による流れるような音楽が特徴的ですね。
この楽曲、実は旋律がとてもわかりにくい楽曲であると思います。
分散和音は旋律の一部なのか?それとも伴奏の一部なのか?
第一拍の最高音は旋律に属するでしょう。第一拍の最低音はベースラインでしょう。
それは間違いないでしょう?しかし、それ以外は何なのか?
基本的には伴奏の一部ととらえてよいと思います。
で、結局旋律は何なのか?と問われると、第一拍の最高音になると考えれます。
赤丸で囲ったところです。とても、シンプルな動きですね。でも、伴われた和声と伴奏を考えると十分歌として機能するものです。
ことさらに強調する必要はないでしょうが、「赤丸は旋律」と思って演奏するとよいと思います。
赤丸と緑で書かれたコード以外に、2つ。黄色と水色の枠の説明をしたいと思います。
最初に、黄枠については、ロンド主題におけるハイライト部分です。基本的にイ短調のコード(AmとE(7))で構成されている中で、黄枠で囲まれた部分に表れるメジャーコードは特異な部分です。
おそらく、出版されている版によってはこの部分にf系の表記があるものもあるでしょう。強弱の指定がされている版の場合はそれに従えばOKでしょう。
このサンプルに使っているようなものについては、フレーズを読み取って、たとえ書いていなくとも、抑揚を伴った演奏をするようにしてください。
水色の枠については、推測されるコードは書かれていますが、実は第三音が書かれていない部分です。古典的な和声の規則に則ると思いっきり禁則ではありますが、和声の規則は数ある曲たちを分析して、後付で作られたものなので、満たしていない作品というのは実は数多く見受けられます。第三音が書かれていないため、本来はコードを断定することはできないのですが、前後の流れから推測されるコードを書いています。
演奏する際は、このコードを意識して(主に、フレーズを収めるようにして)演奏するとよいでしょう。
可愛らしい ヘ長調の主題
短調のロンド主題の合間に挟まれた、小さな可憐な、夢見るような部分です。この楽曲で一番雰囲気の変わる部分でもありますので、その差をはっきりと出せるように演奏するとよいでしょう。
特にアゴーギクの指示はありませんが、2括弧の和声はじっくり味わって、また転調の布石として(遅くしろという意味ではありませんが)十分に時間をかけて演奏するのをお勧めいたします。
この図の赤丸は倚音です。
表現の肝となる倚音については、こちらの記事をご覧ください。
この音は、(単に音を強くすると言う意味ではなく、表現面の)アクセントをつけて演奏しましょう。
橙の丸は、和声変換点ではないため、倚音とは言えない音ではありますが、倚音的な効果のある音ではあります。
この赤丸と橙の丸の両方が存在する部分は、和音から見てもこの部分の表現における大切な場所と考えられます。情感たっぷりに演奏してください。
水色で囲まれた音については、この囲まれた音がある部分における旋律と考えられる音です。その点を考慮して演奏してみてください。特に先に表れる部分の高いGの音については、装飾的なもので、こちらを強調するように演奏してしまうと、この楽曲の意図した表現と異なったものになってしまいますので、その点をご注意ください。
また、曲頭のC音はフレーズの終わりの音であることに注意です。
塊的にはこんなイメージです。
|(ド)ソラシドレ |ミーファレー|ド
小節頭の(ド)は前のフレーズの終わりの音と解釈してください。
激しいイ短調の主題
曲の終盤へ向けての激しい感情を表現する部分です。
ここについては、記のついた部分を気を付けて演奏すれば問題ないでしょう。
紫と橙の丸については、関連があるので、同時に説明します。
紫の丸で囲まれたものは、保続低音(オルガンポイント、オルゲンクンプト)と呼ばれるものです。緊張感や終止感を出すためによく使われるもので、大切な音が一定区間続くものです。終止感を出すために主音の保続低音が、緊張感を増すためには属音の保続低音が使われることが多いです。
橙の丸については、先に説明した保続低音から見たときに不協和音になる音です。緊張感を出す音とも言えるでしょう。
1小節置きに、橙の丸が表れているのがお分かりでしょうか?不協和音による緊張と協和音による解放が交互に表れることで、音楽を進めていきます。この点を存分に意識して演奏するようにしてください。
水色の枠は図中にも書いてある通り、前のフレーズの終わりの音かつ次のフレーズの開始音です。その点を念頭に演奏してください。
以下、2行2022/11/16追記
ちょっと正確ではない表現だったかなと思います。
実際には、フレーズの終わりの音である。ただし、次のフレーズはその小節の頭から始まっている。というのがより正確かなと。
続いて、後半の図です。
前半と似ていますが、後半については一瞬だけ明転する部分があります。黄枠で囲まれた部分から始まる3小節間です。
この今までと雰囲気の変わる部分というのは、その点をはっきりと演奏する必要があります。暗闇に射す一筋の光のような演奏が必要でしょう。
しかしながら、この明転は長く続かない点、Bdim7の音によって、再度短調に戻る点をも考慮して演奏する必要があるでしょう。
いくつかの版がある!? 終わりの音
私が知っているのは、この図で示したどちらとも異なります!
はい、知りませんでした。
元々は、上の図の通りだったのではないかと思います。
この最後の音からは、実はメジャーコードかマイナーコードか判断がつきません。なぜならば、単音だからです。ただし、前後関係からイ短調の楽曲と判断されることは間違いないでしょう。なので、これはこれで問題ないのです。
でも、よく聞かれるのは下のパターンに近いと思います(私が知っているのは、最後の1つ前の小節の「ミドシ」が「レドシ」、すなわち、終止感を強めるためにEの和音ではなくE7の和音に変更されているもの)。
何が違うかと言われると最終和音に第三音が追加されている点です。
これをすることによって、得られる効果は2つ考えられます。
- ハッキリとイ短調の楽曲であったと印象づけられる。
- 楽曲が終わりますよとアピールできる。
1.については、第三音が追加されることで、短和音と明らかにされるため、簡単に推測できるでしょう。
2.については、今までどっちつかずであったフレーズの終わりの音がその調性とはっきりわかる和音に変更することで、「終わりですよ」アピールできるという効果がわかります。
でも、これ、どちらがベートーヴェンの考えた終わりなのでしょうね?
もし、上の図の版が本当なのだとしたら…現代の奏者はよく考えて演奏する必要があるでしょう。
技術的なポイント
分散和音をつなげよう
冒頭から現れる流れるような分散和音が特徴ともいえるこの楽曲ですが、この分散和音をいかに滑らかに演奏できるかが1つの重要なポイントです。
特に、分散和音は左手と右手で分かれています。これがあたかも同じ手で弾いているかのように演奏するのが大切でしょう。
左手と右手の接続部分を自身で意識して滑らかにつながっているかどうかを自問自答して演奏するようにしてください。
また、上記で旋律の音を区別して書きましたが、かといって、この音だけをことさらに強調するように、というよりも伴奏との滑らかさがなくなるように演奏するのは問題かと思います。
フレーズの始まりと終わりを意識しましょう
激しい曲調の部分で一つ触れましたが、これだけにとどまりません。
例えば、明るいヘ長調になる部分の最後の部分。「ミファミレ♯ミシミレミシミレミ」の部分はどう分かれるでしょうか?
「ミファミレ♯|ミシミレ|ミシミレ|ミ」の分け方は明らかにおかしい。
「ミファミレ♯ミ|シミレミ|シミレミ」が正しい。
細かいことのようですが、こういうことを気にするのはとても大切です。
同音の連打は同質を意識しましょう
激しい曲調の部分の保続低音に表れる同音連打です。慣れないうちは難しいでしょう。これくらいであれば、例えば人差し指一本で演奏しても問題はないと思います。
でも、版によっては、2本ないし3本で交互に演奏するような指番号が振ってあるものもあるでしょう。そういったものについては、指を変えても同質性を意識して演奏するようにしてください。いびつになると、その部分が悪目立ちしてしまします。
とにかく、慣れましょう。
楽譜入手
超有名曲なこともあり、全音ピアノピースにあります。
ピアノピースー002 エリーゼのために/ベートーベン (MUSIC FOR PIANO)
- 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
- 発売日: 2008/05/17
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6段階中下から二段目のB難度の設定ですが、これは私個人の体感的に納得できるものです。
初心者を脱してちょっと慣れてきた人にお勧めです。
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