若干、度を越したチャイコフスキー愛を語ったつい先日の記事
そこで触れました「対向配置」について、今日はこれを取り上げてみようかなと思います。
対向配置の勧め、作曲家はこんなことすら気にします
チャイコフスキーの交響曲第6番第四楽章の冒頭
採り上げるのはチャイコフスキーの交響曲第6番より第四楽章です。
実は、この対向配置に関する記事への引用としては、使い古された感がある…のですが、それだけ良サンプルだということで…
ちなみに、冒頭は弦楽アンサンブルでこんな風に聞こえるはずです。
はい、でもこれ、ちょっといじってあるんですね。
実際の楽譜では、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの譜面はどうなっているとおもわれますか?
はい、大事なのは対向配置のサンプルだということです。
対向配置です。
対向配置。
大事なので3回言いました。
対向配置とは、ヴァイオリンが向かい合う配置の事をさします。
こんな感じ。
このように向かい合う配置だということは、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンに距離ができるということです。言ってしまえば、距離がある分、左右で分離して聞こえやすくなるとも言えます(実際にどの程度かというのは、ホールの響きの特性や、どこに座ったか?などで変わるかと思われます。おそらく、指揮者の位置が特等席ではないかと思われます)。
ここまで書いたら想像つく方がいらっしゃるかもしれませんね。
では、(発想標語などは除いておりますが)実際の譜面がどうなっているかご覧いただきたいと思います。
こうです。
この楽譜をぱっとみて旋律がどれかわかりますか?
「は?なんでこんな書き方してるの???意味不明」と思われる方もいるでしょう。
これ、第二ヴァイオリンと第一ヴァイオリンが交互に旋律を演奏しているんですね。
この形をパートを意識せず音域の上から順に集約した上の図と見比べてみてください。上の図だったら旋律がどれか一目瞭然ですよね。
この書き方について、対向配置に触れずに解説したものを見たこともあるのですが、どうも無理があるように思うのです。(たとえがあまりうまくないのですが…旋律を楽器を散らして演奏することで、一人で演奏しものと違い、俯瞰したような表現になる…のような。でも、これ一人で演奏しても、できなきゃいけないんはずなんです)
その点、旋律が左右からちりじりに聴こえるように対向配置を意識した書法である。というのは筋が通っていると思います。
ここで、実際に対向配置の例をご試聴いただきたいと思います。
この記事で説明している第四楽章の音源は見つからず…
第一楽章から。
1'13''からをお聴きください。
赤で囲ったところと青で囲ったところが交互に表れる旋律です。
実は…この部分、第二ヴァイオリンとチェロ、第一ヴァイオリンとヴィオラという組み合わせで、右と左がある程度混じってしまっているので、若干わかりにくいかも…なんですけれども、よーく、よーくよーく耳を凝らしてみると、右、左、右、左と交互になっているのがわかります!
くるみ割り人形の楽譜に見られる、対向配置を意識して書かれたと思われるポイント
同じ作曲家チャイコフスキー作曲のくるみ割り人形に限定し、さらに、私がパッと思いつくだけでもこれだけサンプルが見つかります。
第二ヴァイオリンとチェロ、第一ヴァイオリンとヴィオラの組み合わせで、交互に演奏することで一つの旋律が出来上がっています。
第一ヴァイオリンが上から下へ、第二ヴァイオリンが下から上へ。
16分音符の駆け上がる音形が下手にある第一ヴァイオリンと上手にある第二ヴァイオリンおよびヴィオラで交互に演奏されてます。
実は、この前にも、オーボエおよびボーイソプラノが中間部の旋律を歌うバックで。第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが主部のテーマの音形を交互に演奏していたりもします。まるで、雪があちらこちらで舞い散っているのを表現しているかのようです。
で、この後にも第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラで3和音を演奏している箇所があるのですが、トップノートが第一、第二、第二、第一の順で、真ん中の音が、第二、ヴィオラ、ヴィオラ、第二の順で、一番したの音がヴィオラ、第一、第一の順番で入れ替わる個所があったりと、この曲は多用されてます。
対向配置のキラキラで雪のきらめきを表現しているのでは、なんて思っていたりします。
見てください、このA音のオクターブを第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンで交互に行ったり来たりする譜面を。
こんなん、音響効果狙ってなかったら、ただ無駄に難しいパッセージでございますよ。
(いや、実際は同音で弾くのとは異なった音に聴こえて無駄ということはないのですが、でも、対費用効果的に見合わないと思われます)
今回は、チャイコフスキーに限りましたが、歴史上の名だたる作曲家の作品でこのような例をたくさん見つけることができます。
最近(というほど最近でもないですが)、「本来はどのような意図がなされていたのか?」という原点回帰の流れなのか、古楽が盛んになったり、原典版と称する楽譜が発表されたりしていますが、それと同様に対向配置でコンサートを開く指揮者も増えてきましたよね。
対向配置以外でホールの音響を利用した楽曲
昔から、舞台の裏で演奏するバンダなどもありましたが、一度「おぉ、これはすごいな!」と体験した曲がありますので、ご紹介します。
中橋愛生さんの谺響する時の峡谷-吹奏楽のための交唱的序曲
- アーティスト: オムニバス(クラシック),須藤卓眞,森島洋一,若林義人,福本信太郎,小澤俊朗,柏市立酒井根中学校吹奏楽部,大津シンフォニックバンド,龍谷大学学友会学術文化局吹奏楽部,川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団,神奈川大学吹奏楽部
- 出版社/メーカー: ブレーン
- 発売日: 2010/05/20
- メディア: CD
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こちら、ホールで聴いたのですが、楽器が舞台上だけでなく、客席のいろんな部分に配置されていまして、本当にこだましているように聞こえました。
高価なAV機器を持っていたら近いものを経験できるのかもしれませんが、そうでなければ、あれはホールに実際に出向かないと体験できないものだったと思います。
とても贅沢な音響空間でした。
作曲家って、結構いろんなことを考えて作っているんですねー(他人事!?)
是非是非、興味を持っていただきたい、昔から考えられていたステレオ効果のお話でした。